我が家
門をくぐると、そこは村の形ができつつあった。
いくつもの家が建ち、水路が村の中を走っている。
「よお、魔物軍は制圧したみたいだな!」
大々が大きな声で怒鳴りながら歩いてくる。
「数千の軍勢を十人で殲滅。流石は王都十剣といったところですか」
徹が眼鏡の位置を直しながら言う。
一馬は馬車から降りながら答えた。
「今じゃ帝都十剣だよ。王国暦も帝国暦に変わった。連絡は来てないのか?」
「帝都から遠いとこういう時不便ですね」
「そっか。帝都から離れた村じゃそんな感じか。祭りとかあって凄かったんだぜ」
「堪能してきたようでなにより。こちらは移住者がそれなりに集まり始め、今は整地作業をしている最中です」
「そっか。上手くやってくれてるんだな」
「確かにあちこちで人が石拾いをしているだわさ」
「村になってくんだなあ」
感心したように静流と遥も馬車から降りてくる。
「ここが一馬達の領地かぁ」
そう言って、あやめが馬車から降りてくる。
刹那、スピカもその後に続いた。
赤い上着は帝都十剣の証だ。
「結城さんは?」
「奥さんの膝枕でぐっすりよ。私と共同任務の時はけして隙を見せないのにね」
あやめはそう言って肩をすくめた。
「旅行を堪能してるなあ」
一馬は苦笑交じりに言う。
そして、大々に向き直った。
「教会はできてるか?」
「ああ。牧師ならやっこさんから来てくれなさった。最初は胡散臭いと思ったが、読み書きも教えてくれるというでな」
「それは重畳」
「なにか企画でもあるのか?」
「結婚式」
大々は目を丸くした。
「結婚? 誰が?」
「俺」
そう言って、一馬は悪戯っぽく笑った。
大々が一馬の肩を抱く。
「そうか、ついに腹を決めたか。領地があっても後を継ぐ者がいなくてはな」
「いや、子供は考えてないんだ」
「じゃあ他の領主の子供に継がせるんで?」
「私、結婚する気はないだわさ」
「俺も結婚は当分いいかなあ」
大々はしばらく気まずげに黙り込んでいたが、そのうち溜め息を吐いた。
「物欲がないというかなんというか」
「天国まで領地は持っていけないだわさ」
「それもそうですがねえ。ああ、そうだ。いい場所に家を建てたんで是非見てくれ」
そう言って大々は前を歩き始めた。
一馬達一行もその後に続く。
小高い丘の上に、広々とした家が建っていた。
「これが俺の家か」
感嘆混じりに一馬は言う。
これで一馬も一城の主だ。
家に入ると、丘の上からの景色が見える場所に、広々とした大きな窓が作られていた。
「気に入った!」
「だろう? 部屋も十個ある。領主に相応しい家だ」
「よし、部屋決めするだわさ」
「ジャンケンか?」
遥が問う。
「実戦!」
「部屋決めで殺されたらかなわないわ」
遥は呆れたように言った。
「ここで共同生活していくのねー。賑やかそうで羨ましいわ」
あやめが周囲を見渡しながら言う。
「私も部屋を貰えるでしょうね、一馬」
刹那が悪戯っぽく微笑んで言う。
「師匠になら喜んで」
「じゃあ」
「あやめさんは嫌です」
「サキュバス差別だ!」
「前例がある人がなにを!」
賑やかに一日は過ぎていった。
第七十一話 完
次回『ハードルの高い余興』




