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悪に堕ちる

「さて、なんの余興だろうか勇者殿。俺に敵わぬことは十分わかったと思うが」


 結城は腕組みして、顔を片手で隠そうとしている神楽に話しかける。


「……作戦プランその二」


 神楽は呟いて、指を鳴らした。

 羽が生えた魔物が女性を抱えて飛んでくる。

 その姿には、見覚えがあった。

 結城の、妻だ。


 結城が、剣を強く握る音が、こちらまで聞こえてきた。

 魔物は神楽の前に結城の妻を置く。

 神楽はその首に剣を突きつけた。


「あなた! 私など気にしないでとどめを刺してください!」


 その顔が蹴られる。


「次は腹を蹴るよ。妊娠してるからそれは嫌だろう?」


「妊娠、だと……?」


 結城は唖然として、自らの妻に視線を送る。

 しかし、彼女は毅然としていた。


「かまわず、敵を!」


 神楽が足を振り上げる。

 その瞬間、影が一同の間を駆け抜けていった。そして跳躍し、屋根の上に着地する。


 スピカだ。

 腕には、結城の妻を抱いている。


「二次会と結婚祝い、まだしてないからね。追いかけてきた」


 いつものぼんやりとした表情でスピカが言う。


「やっぱりお偉いさんがいない二次会が楽しいんだよなあ」


 新十郎とあやめが後ろから近づいてくる。


「不満だけどその意見には同意だわ」


「同意なのに不満なのか?」


「あなたと同じ意見なのが不満なの」


「さいで」


「さあ、どうする、悪に堕ちた勇者!」


 結城が剣で相手を指す。

 神楽はしばらく黙り込んでいたが、そのうち笑い声を上げ始めた。


「脅威を五人も排除できる。ありがたい」


 覇者の剣が輝き始めた。

 次の瞬間にも光刃による攻撃が行われるだろう。


「シャロ、結界を二重で張るぞ!」


「いや」


 結城は、短い言葉で言う。


「これは、俺じゃなくては駄目だ」


 そう言った瞬間、結城の剣が輝き始める。

 二つの剣から放たれた光刃がぶつかりあった。


 そのうち、相手は消え、結城の光刃が石畳の道をえぐりながら噴水を破壊する。


「……消えた?」


 結城は戸惑うように言う。


「倒したのでしょうか」


 遥も、戸惑いながら言う。


「違うね。逃げた」


 あやめが、淡々とした口調で言う。


「結城くん。今後、奥さんには弟子を護衛につけなさいな。あんたの弟子ならそれなりの戦力になるでしょう」


「そうだな……あやめの言うとおりだ」


 剣を鞘に収めた結城の傍に、スピカが降り立つ。

 そして、彼女は腕に抱いた結城の妻を、結城に手渡した。


「子供ができたって、本当か?」


 結城は、問う。

 結城の妻は、しばらく黙り込んでいたが、そのうちひとつ頷いた。


「そうか。俺も父になるのだな……」


 結城は感慨深げに、そう言った。


「ひとまず、俺は皇帝陛下に話を伝えに行く。妻を護衛して家に行っててくれるか」


「酒飲んでいいか?」


「いいぞ、新十郎。浴びるほど飲め」


 そう言うと、結城は妻を立たせると、屋根の上に飛び上がり、そのまま駆けていった。


「相変わらずとんでもない速度ですね」


 一馬は、思わず感心して言う。


「あの人の常識で弟子を教えるんだから後継が育たないわけよね」


 あやめは、苦笑交じりに言った。

 その夜、酒盛りが行われた。

 結城は、帰って来なかった。



第六十七話 完



次回『疑惑』

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