勇者 一条神楽
今斬ったのは何体目だ?
次の遥の溜めが終わるのはいつだ?
援軍が来るのはいつだ?
(やめろ! 雑念を振り払え!)
そうは思うのだが、集中力は一度切れたら中々元の状態には戻れない。
一馬は、ゾーンから抜けた。
ギガスが振り下ろした棍棒を刀で受け止める。
刀は呆気なく砕け散り、一馬の体は後方へと吹き飛ばされた。
「一馬!」
シャロが叫ぶ。
遥は次の飛燕を放つために集中しきっているらしい。
痛みで意識が朦朧としてきた。
まだ、自分にはできることがある。
死線の上に一馬はいる。それを再実感した。
集中力が、そのとたんに急速に練り上げられた。
「断界!」
黄色い壁が、一馬達を囲む。
敵は黄色い壁にぶつかっては消滅していった。
その範囲を広げていく。
敵は、徐々に退いていった。
鼻血が出てきた。それを拭い、さらに範囲を広げる。
「一馬! 飛燕、チャージ完了!」
「おうよ!」
断界を解く。
敵は後退した。
つまり、飛燕の射程範囲の中に入ったということ。
飛燕が放たれ、血の雨が降った。
「……あと百、といった所でしょうかね」
刹那はそう言って歩き出す。
全ての剣を鞘に収めた新十郎もその後に続く。
「あなた達は十分やりました。あとは十剣が二人揃えば戦えない数ではありません」
刹那はそう言って、剣を構えて駆けて行った。
新十郎も剣を鞘から放つ。
その時のことだった。
横手から光の刃が放たれた。
刹那も、新十郎も、唖然として立ち止まる。
敵はその場から消え去っていた。
そして、その場には鎧に身を包んだ少女が一人。
「少し遅刻したけど間に合ったって感じかな」
そう言って、彼女は剣を肩に担ぐ。
不思議な剣だった。太く、半ばに棘のような突起がある。
「あなたは……?」
刹那は、戸惑うように訊く。
「勇者、一条神楽」
そう言って、少女は真っ直ぐと前を見る強い瞳で微笑んだ。
+++
結城は敵のボスと一対一で戦っていた。
筋力は相手のほうが上。
まともに打ち合っては剣が折れる。
それを技術でなんとかしているのは流石は十剣の第一席といったところか。
後方で、光が迸るのがわかった。
(今の技。誰だ?)
雑念が混じった。
結城は首切り刀を逸らしきれずに、間一髪で躱した。
「現れたか……」
魔族公はそう言うと、馬を翻した。
そして、撤退していった。
周囲の気配を手繰る。敵は撤退しつつある。
あれだけ少なくなった軍で突撃を続けたのに、何故今更?
「……なんか、きな臭いな」
結城は呟いたが、剣を振って血を飛ばすと、紙で刀身をふいて鞘に収めた。
第六十四話 完
今回の更新はここまでとなります。




