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夜空の下で

「井戸に水が流れてきましたよ!」


「うおおお、流石土のエレメンタルマスター様だ!」


 川の位置が離れると聞いて不満顔だった管理人達も、井戸を作ってもらえて大興奮だ。

 シャロが力をセーブしながら走って、馬車で戻ってくるまで三日といったところだろうか。


 町は、蝋燭に火をつけるように命の灯火をつけられようとしていた。

 その日は、あやめが持ってきた酒が振る舞われた。


 一馬は未成年なのと酒が苦手なのもあって飲まなかったが、一同、大いに盛り上がった。

 そして、深夜になる前に、寝入ってしまった。


「どうしたもんかね」


 一馬は呆れ混じりに言う。


「柵で狼なんかも入ってこないし、女性は寝所に、男性は横にして放置しておきましょうか」


 そう、あやめが提案する。


「あやめは酒強いな」


「強くないわよ」


「けど、皆潰れてるのにあやめは元気だ」


「飲まなかっただけ」


 そう言って、あやめは舌を出して微笑んだ。

 どきりとする。あやめと二人きりだ。

 けれども、一馬は血や容姿で他人を差別する術を知らなかった。

 なにより、幼馴染と似た外見が警戒心を薄れさせるのだ。

 酔い潰れた仲間達を移動させ、外を歩く。


「星を見るのにいい丘があるんだ」


 あやめが、呟くようにそう言った。


「いいぜ」


 一馬は呟いて、あやめが歩きだすのを待つ。

 あやめはすぐに歩き始めた。

 その後を、追う。


 確かに、町の中には小高い丘があった。

 こんな場所も、将来的には整備されてしまうのだろう。


「どう? 絶景でしょ」


 見渡す限りの星の海。その一つ一つが生命であるかのように輝いている。


「これは凄いなあ」


「そうでしょうそうでしょう」


「幼馴染とも天体観測したことあったな」


「元カノの話?」


 あやめはからかうように言う。


「馬鹿、幼馴染って言ってるだろ」


「男?」


「女」


「幼馴染でもね、結婚はできるんだよ。彼女は君がいなくなって泣いているかもしれない」


「すぐに次の男を見つけるさ。厳しい冬の後に桜咲く春が来るように、出会いと別れもサイクルでできている」


「ドライなんだね」


「師の教えだ」


「えーっと、君の師は確か」


「第六席の赤羽刹那さん」


「ああ、そうだそうだ。刹那ちゃん。若いのに真面目な子だよね」


「あやめも若そうに見えるけど」


「私の実年齢を知ったら君は私を呼び捨てにできなくなると思うなあ」


 サキュバスの血か。そんな思いが、脳裏をよぎる。


「おかげで修行も人の何倍もつけられた。私の家から十剣を出したのは私の誇りなんだ」


「あやめは若く見えるよ。とてもとても」


「ありがとう。ねえ、人間って勝手なものだと思わない? 弱者を嘲笑い軽蔑し、強者を敬い褒めはやす。たとえその弱者と強者が同じ存在でも。ラベルしか見てないのよ」


 あやめは、少し憎たらしげにそう言う。


「人間は嫌いか?」


「嫌いじゃないけど、お婿さんは強い人がいいなって思うわ」


 その時、一馬は目眩を覚えた。

 酒を一滴も飲んでいないのに酩酊感がある。


「あれ、なんで……」


「思ったより効くのに時間かかったね」


 あやめがなんでもないことのように言う。


「大丈夫」


「なに、がだ……」


「優しくしてあげるから」


 そうして、一馬の意識は闇の中に落ちていった。



+++



 夢を見た。

 一馬は鉄パイプを拾って、学生服を着た敵三人を打ちのめす。

 幼馴染がそれを、悲しそうに見ていた。

 そこで、目が覚めた。


 全ては夢だったのだろうか。

 夢現で一馬は体を起こす。

 服は着ている。

 そして、隣を見て硬直した。

 裸のあやめが横になっていた。


 頭を抱える。

 やらかした。

 その五文字が脳裏を支配していた。




第五十六話 完

次回『すれ違い』

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