平和な日常
木と木がぶつかり合う音が周囲に響き渡った。
あやめの居合を一馬が受けとめた音だった。
二本の木剣は押し合い、ついには離れた。
「ふむ、やるね」
あやめは妖しく微笑む。
「第一席といい勝負をしたってのもあながち誇張じゃないようだ」
「当たり前だ! こいつがデマなんて流すわけねえ!」
何故か大々が胸を張っていう。
「そんなこと言ってないわよ」
あやめは苦笑交じりに言う。
「次は俺が」
そう言って、遥が出ていく。
「やめといたほうがいいぞ。神速とはまさにこのことだ」
「お前にできてなんで俺にできないと考える。それは傲慢だ」
その言い分も尤もだったので、一馬は止める言葉を失った。
その時、一馬は愛に手を引かれて歩きだしていた。
「一馬。若干川が町に近すぎるわ。それに形も悪い。地形を変えたほうがいいと思う」
「できるのか?」
愛は悪戯っぽく微笑んだ。
「私を誰だと思って?」
「おみそれしました、土のエレメンタルマスター様」
「作業は半日ぐらいかかるから、昼食とかたまに差し入れに来て」
「わかった」
その時、遥の鈍い声が聞こえてきた。
「言わんこっちゃない」
一馬は、思わずそう呟いていた。
第五十五話 完
次回『夜空の下で』




