王都十剣第二席 鬼龍院あやめ
馬車に揺られながら、目的地に近づいていく。
愛と遥はトランプのようなゲームに興じ、シャロと静流がそれを興味深げに眺めているが、今ひとつルールがわからない。
その時、馬車が止まった。
「どうしました?」
一馬は御者に訊く。
「人が……座り込んでいる」
「こんなところで珍しいですね」
「いや、それが。立てた刀の上に座り込んでいる」
それで流石に一馬達もぎょっとして、馬車のほろから顔を出した。
確かに、少女が一人、刀を器用に立ててその上に座っていた。
人魚は美しい外見と歌うことで船員を惑わせ、難破させるという。
彼女はそれを連想させた。
「俺が出るよ。三人は臨戦態勢に移ってて」
「了解」
口々に言う三人を残して、一馬は少女の傍に歩み寄った。
(いや、これは、人魚なんかじゃない……)
思い出すのは転移前の記憶。
いつも隣にいた幼馴染。
眼の前にいる少女は、彼女によく似ていた。
「なにをしてらっしゃるんですか?」
「人を待っているの」
少女は愉快げに微笑んだ。
「刀の柄が椅子じゃケツが痛くなるっしょ」
「そうでもないわ。慣れてる。それに、臨戦態勢に移るのも簡単だし」
「そういうものですか」
「あなたの名は?」
「王都十剣見習い。二神一馬」
少女の目が大きく見開かれた。
次の瞬間、彼女は地面に立ち、抜刀術を披露していた。
それを、一馬は受け止めようと刀を鞘から抜こうとする。
二つの刀は触れ合うことなく、静寂が場を支配した。
どんな剛力か、一馬の刀にぶつかる寸前、少女は自らの刀を止めていた。
「面白いわね。今の速度に対応するとは」
少女は愉快げに言う。
その所作からは、まだ彼女が全力には程遠いことが透けて見えた。
「あなたは……?」
「王都十剣第二席。鬼龍院あやめ」
そう言って、あやめは手を差し出す。
一馬は、ためらいながらも、その手を取る。
やわらかい手だった。
「よろしくね」
そう言って、あやめは微笑む。
思わず、頬が熱くなる。
一馬は、慌てて握っていた手を離した。
「俺達を待ってこんなところへ? ルートも来るかもわからないのに?」
「それは簡単よ」
あやめは子供のように微笑んで言う。
「女の勘よ。邪魔が入らず話せるならここだと思った」
そう言って、あやめは馬車に視線を走らせる。
「まあ……邪魔はどの道入る運命だったみたいだけどね」
そう言って、あやめはつまらなそうに馬車の中に入った。
「一緒に来るんですか?」
一馬は戸惑いつつ声を上げる。
「王都十剣の名前を出せば色々便宜を図ってもらえるのはあなたも知ってのことでしょう? だから十剣見習いなどを自称している」
痛いところを突かれて、一馬は反論の言葉を失った。
大人しく、馬車に乗る。
どうしてか、元からいた女性陣の視線が冷たいものになった気がした。
そして、一馬は新十郎の忠告を思い出していた。
第五十二話 完
次回『新十郎の忠告』




