そういえば、領地って
「そういえば領地貰ったって言ってたのってどうなったんだっけ」
シャロが王都についた馬車を降りて言う。
そういえば、その話は曖昧なまま終わっていた。
一馬は、答えることにした。
「信頼できる人に話を預けたよ。今ごろ家も建って畑も耕されてるんじゃないかな」
「へー。じゃあ私達も一端の領主ってわけか」
シャロは感心したとばかりだ。
「転移してきたばかりのお前に信頼できるツテなんかあるのか?」
遥が疑わしげに言う。
「人間性は信頼しているよ。腕は未知数だけれども」
「ふうん」
「あの、私、見に行っていい?」
出迎えに来ていた愛が恐る恐るといった感じで言う。
「当然だろ、大歓迎だ」
そう言って一馬は微笑んだ。
この時点まで、世界の時間の流れはとても緩やかに感じられた。
そう、この時点までは。
+++
「住民は二人ですね」
「二人?」
ギルドの受付で、一馬は唖然とした表情で言う。
「それはスタッフを入れて? 抜かして?」
「入れてですね」
「少しも人が入ってないってことじゃないか」
一馬は目眩がする思いだった。
「まあ、新しい土地に入るのは勇気がいることですし。最近は南の村で大型の工事が行われていますしね」
一馬はしばし考えた後、溜め息を吐いた。
「実際に現地に行ってみる。また来るよ、ありがとう」
「ご利用ありがとうございました」
外で待っている面々、遥、静流、愛の前に立つ。
「どうも全然事態が進展していないらしい」
一馬の言葉に、遥と静流はげんなりとした表情になる。
やはりか、と言わんばかりだ。
愛が冷静な表情で言う。
「仕方ないよ。今は大工の殆どが南に駆り出されているし」
「うーん、前途多難だなあ」
「まあタイミングが悪かっただわさ。実際に一度立ち寄ってみてどんな土地か確認するのもいいだわさ」
「だな」
一馬は頷く。
「それじゃあ行くか。俺達の土地へ」
「歩きで?」
静流が含みのある物言いをする。
「私が馬車を手配するよ。四人でゆっくり行こう」
「それでこそだわさ!」
愛の言葉に、静流は飛び跳ねんばかりに喜んだ。
(これじゃあ俺がケチみたいじゃないか)
と思ったものの、実際ケチなのだから仕方がなかった。
第五十一話 完
次回『王都十剣第二席 鬼龍院あやめ』
日曜から月曜にかけて八話投稿しようと思います。
多分途中で寝るので月曜日の更新が主になると思います。




