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思い出のアルバムにしまおう

 その後の愛の記憶は曖昧だ。

 一馬に別れを告げて、第三席と共に王都へ帰った記憶が朧気にある。


 一馬への感情を整理して、図書館で本を読みながら、研究者なりに一つ呟く。


「なるほど。これが失恋って奴か」


 胸に大きな穴が空いたようだ。

 夜ごと交わした会話すら、今では痛みに思える。


 それは、本としか対話してこなかった愛が初めて抱いた失恋と対話。


「……もっと話したかったな」


 中々自分も執念深い女だと思う。

 一馬への気持ちを、自分は忘れないだろうと思う。

 たとえ他の誰かと結婚しても忘れないだろうと思う。

 あの数日間を忘れないだろうと思う。


「おい、土の」


 声をかけられて、愛は顔を上げる。

 新十郎がそこにはいた。


「なんだ。顔色良くなってきたじゃねえか」


「あなたに心配されるいわれはないですよ」


 苦笑交じりに言う。


「それにしても、凄い男だったな」


「ええ……」


 胸が痛むが、それだけは言える。


「一生忘れられないぐらい、凄い男でした」


「俺は?」


「多分数年会わなかったら忘れてますね」


「そりゃないぜ」


 情けない顔をした第三席に、愛は笑った。

 一馬との会話を思い出す。


「俺の住んでいた世界にはカメラってものがあってな」


「カメラ?」


「風景や人物をそのまま写真にして記録してくれる。精密な絵を一瞬で作る機械って言えばいいのかな」


「それは便利だねえ」


「だろ。人は写真をアルバムに入れて保存するんだ」


(私は保存してるよ、一馬)


 愛は、心の中で呟いて、本のページをめくった。



第五十話 完

今週の更新はここまでです。

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