到着
それから、愛は夜が楽しみになった。一馬と二人きりで話せるからだ。
二人はお互いの人生を語り、一つそれを知るごとに一つ親しくなれた気がした。
この感情はなんだろう、と愛は思う。
もっともっと一馬のことを知りたかった。
しかし、無情にも、馬車は目的地へと到着した。
昼のことだった。
「げっ。第三席」
馬車を降りる新十郎を見て、刀を帯びた少女が嫌そうに言う。
「相変わらず失礼な奴だな、第六席」
新十郎は呆れたように言う。
一同の前には、地面にぽっかりと空いた深く巨大な穴があった。
「うちの弟子にちょっかいを出したんじゃないでしょうね」
「ちょっかい出して負けたよ」
「それは重畳」
「相変わらず嫌な女だなお前」
「あなたに対してだけですよ。私は粗暴な人は嫌いです」
「そうですかい」
愛は、地面に触れる。
そして、歌い始めた。
それは、土に共鳴し、大地の精霊へと届いた。
穴が埋まっていく。
新たに生み出された土によって埋まっていく。
そして、完全に、その場には穴の痕跡はなくなっていた。
「流石ですね。国家お抱えのエレメンタルマスターなだけはある」
第六席、と呼ばれていた少女が感心したように言う。
「いえ、まだまだ未熟です。封印もするんでしたっけ」
「お願いします」
その時のことだった。
「一馬ー!」
ロングスカートに帽子をかぶった少女が駆けてきた。
彼女は一馬に抱きつく。
「よう。留守番中飯は食えたか?」
「心配で食事もあんまり進まなかったよ」
「そうか。今日からは沢山食え」
「いいダイエットになった」
「調子のいい奴……」
一馬は呆れたように言って、帽子の少女の頭を撫でる。
愛は、しばらく呆然としてそれを見守っていた。
眼鏡を落としたわけでもないのに、視界が緩んだ。
自分が恋に落ちるなんて、思ったことがない。
それが笹木愛の人生だった。
だから、戸惑う。
宙ぶらりんなまま終わった恋は、どう処理すればよいのだろうかと。
第四十九話 完
次回『思い出のアルバムにしまおう』




