不死軍団
「いや、それは違うのではないか?」
馬車の中で新十郎が腕を組んで言う。
「相手に技を出させた時点で不利は決まっている。通常の剣技で押すのが有利と思うが」
「新十郎さんの場合はそうかもしれませんが、俺には断界がありますからね。また戦いの組み立て方が違ってくる」
さっきからずっと二人は剣術談義だ。
愛は本を読んで時間を潰している。
これなら二人旅のほうが良かったな。
そんなことを思う。
空は夕方を過ぎ、夜が近づいてきた。
「不死公の領域は抜けられそうかな」
一馬が御者に訊く。
「なんとかなりそうとは思いますよ」
御者はやや自信なさげにそう返す。
その時のことだった。
地面から数々の人骨が現れ始めた。
人骨は槍を持って武装している。
「遅かったか……」
御者が悔いるように言う。
人骨の群れは、槍を持って馬車に突進してきた。
一馬と新十郎が刀と剣を抜いて外へと飛び出す。
「四撃彗星!」
そう新十郎が唱えると、四本の剣が彗星のように光って周囲を飛んだ。
それは、人骨を粉々に砕き、槍をも折った。
「こんなエグい技を人間に放とうとしたんですか」
一馬は呆れたように言う。
「手加減はするつもりだった」
新十郎は悪びれずに言う。
「俺はターンアンデットの詠唱に移る。一馬、守れるか?」
「……やるだけやってみます」
一馬は自信なさげだった。
白い光が新十郎を包んでいく。
一馬は見えない壁を蹴って、宙から宙へと移動する。
その刀の軌跡は明確に不死者達を倒していた。
しかし、次から次へと再生する敵だ。
しかも、徐々に数が増えている。
馬車のほろを破り、槍が愛へと突き進んだ。
一馬は愛を抱きしめると、槍を腹で受け、刀で断った。
愛は心音が高鳴るのを感じた。男性に抱きしめられている。
「そうだ。忘れていた。こちらにも切り札があるんだった」
一馬は、呼吸を乱しながらそう言う。
「土の結界で馬車と新十郎さんを覆ってくれ。そうすれば、かなり楽になる」
戦いの場に立ったことがなかったのですっかり失念していた。
土で壁を作れば、死者を遠ざけられるのだ。
「穏やかな土よ、命の源たる土よ、我らを守る結界となれ!」
詠唱が終わった瞬間、死者達と愛達は土の壁で完全に分断されていた。
「あんた、大丈夫? 槍、突き刺さってるけど」
「なに、新十郎さんに回復してもらうさ。結構痛いけどな」
そう言って、一馬は馬車の床に倒れ伏した。
白い光が浄化していく。
死者を眠らせていく。
「大丈夫か、一馬?」
そう言って、新十郎が馬車に乗ってくる。
馬車の中には、血の臭いが充満していた。
「いいか、三、二、一のタイミングで槍を抜け。キュアーで回復してやる」
「三、二、一」
一馬は槍を腹から抜いた。
その瞬間、白い光が一馬を包んだ。
一馬は荒い息を吐いて、その場に座り込む。
「あの大軍を前に、立派な働きだった。お前はやはり強いな、一馬」
新十郎は感心したように言う。
「土の結界がなかったら今頃全身串刺しですよ」
一馬は苦笑交じりに言う。
「そう謙遜しなくていい。お前が強いのは、俺が既に知っている」
一馬は拳を掲げた。
その拳に、新十郎は拳をぶつける。
「向こう数ヶ月はゾンビの類が出ることはない。今日はここで野営しよう」
そう言って、新十郎は野営の準備に移った。
愛は、心音が静まらないことに戸惑いながら、胸を抑えてその場に座っていた。
第四十七話 完
次回『野営の夜』




