表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

43/200

月が綺麗ですね

 少し離れた位置にある町で馬車を降り、四人と一匹は店で食事を始めた。

 シャロは沈んだ顔をしていたが、人一倍食べた。

 心配するのも馬鹿らしいな、と一馬は思う。


 皆が寝静まった夜、なんとなく外に出たい気分になった。

 世界の各地にあるかもしれない魔界との穴。

 どうにか全て塞がなければならなかった。


「師匠」


 刀を帯びているが、寝間着の刹那と一馬は鉢合わせした。


「どうしたんですか?」


「どうも、眠れなくて……」


 刹那は苦笑交じりにそう言う。


「俺もです」


 一馬も苦笑する。


「散歩でもしましょうか」


 刹那はそう言って、歩き始めた。

 一馬はその後に続く。

 夜の町を、歩く。


 不意に、手をつながれて、一馬は驚いた。


「一馬。あなたは私の手を醜いと思いますか?」


 刹那は、淡々とした口調で問う。


「戦いに明け暮れ、マメができても刀を振り、出来上がったごつごつとした手。醜いと思うでしょうか」


 一馬は、即答した。


「努力の染み込んだ、綺麗な手だと思います。この硬さ一つ一つが、師匠の努力の証だと思うと、弟子の俺まで誇らしくなってきます」


 刹那はしばらく一馬の顔を覗き込んでいたが、そのうち苦笑した。


「そうですか」


 刹那は歩く。上機嫌で夜の町を。


「月が綺麗ですね」


 刹那は、珍しくか細い声で呟くように言う。


「月、出てます?」


 一馬は、身を乗り出して夜の空を見上げる。


「……あなたらしいと言えばあなたらしいですね」


 刹那は苦笑して、一馬の頭を撫でた。

 その切なさが同居した苦笑顔が、今までの彼女の表情で一番綺麗に見えた。



第四十三話 完

今週の更新はここまでです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ