月が綺麗ですね
少し離れた位置にある町で馬車を降り、四人と一匹は店で食事を始めた。
シャロは沈んだ顔をしていたが、人一倍食べた。
心配するのも馬鹿らしいな、と一馬は思う。
皆が寝静まった夜、なんとなく外に出たい気分になった。
世界の各地にあるかもしれない魔界との穴。
どうにか全て塞がなければならなかった。
「師匠」
刀を帯びているが、寝間着の刹那と一馬は鉢合わせした。
「どうしたんですか?」
「どうも、眠れなくて……」
刹那は苦笑交じりにそう言う。
「俺もです」
一馬も苦笑する。
「散歩でもしましょうか」
刹那はそう言って、歩き始めた。
一馬はその後に続く。
夜の町を、歩く。
不意に、手をつながれて、一馬は驚いた。
「一馬。あなたは私の手を醜いと思いますか?」
刹那は、淡々とした口調で問う。
「戦いに明け暮れ、マメができても刀を振り、出来上がったごつごつとした手。醜いと思うでしょうか」
一馬は、即答した。
「努力の染み込んだ、綺麗な手だと思います。この硬さ一つ一つが、師匠の努力の証だと思うと、弟子の俺まで誇らしくなってきます」
刹那はしばらく一馬の顔を覗き込んでいたが、そのうち苦笑した。
「そうですか」
刹那は歩く。上機嫌で夜の町を。
「月が綺麗ですね」
刹那は、珍しくか細い声で呟くように言う。
「月、出てます?」
一馬は、身を乗り出して夜の空を見上げる。
「……あなたらしいと言えばあなたらしいですね」
刹那は苦笑して、一馬の頭を撫でた。
その切なさが同居した苦笑顔が、今までの彼女の表情で一番綺麗に見えた。
第四十三話 完
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