崩落
赤羽刹那とコルトの戦いは三十分にも及んだ。
(私に結城くんほどの実力があれば……)
刹那は歯噛みするしかない。
その時、耳元に感じた声に、刹那は戸惑った。
「師匠!」
鍔迫り合いをして動きを止める。
(一馬。あなたは地上に向かっているはずでは?)
「五歩後ろへ下がってください。それで、全てうまくいく」
戸惑いつつも、相手の剣を弾き、五歩後退する。
一、二、三、四、五。
その瞬間、目の前に天井が崩れ落ちて、大量の破片が大地へと落下した。
コルトは、その下で呻いている、
「早く!」
上の部屋への出入り口に一馬が来ている。こちらに手を差し伸べている。
刹那は、その手を取った。
男の子と手を繋いだ経験なんてなかったな、と刹那は思う。
そして、ゴツゴツとした手の肌を握られているのだな、と思うと、少し気恥ずかしくなった。
「静流、オッケーだ! 次の階行くぞ!」
「了解だわさ!」
更に上の階に上る手前で、静流は地面に杖を突き立てる。
そこにはまだ、タイルが敷き詰められていない。
もしも相手が天井や細かい部分にタイルを敷き詰める段階に移っていたら、危なかっただろう。
「穏やかなる岩の精よ、今一度その力を示したまえ。ガイアクラッシュ!」
天井から上の階が下へと落ちていく。
それは、穴を通して更に下の階に落ちていくのだろう。
「さあ、次!」
静流が言って、残った細い通路へと駆ける。
途中、シャロと遥と合流し、一同は外へと出た。
それは永遠にも思える短い時間だった。
壊れていく。
冒険した場所が壊れていく。
しかし、寂しくはない。
ここは危険な土地なのだから。
日光を浴び、四人と一匹は大地に寝転がる。
肌を撫でる風も、体を照らす日光も、心地よい。
「これ、任務成功なんですかね、失敗なんですかね、師匠」
刹那は上半身を起こすと、胸を張って答えた。
「敵の拠点を破壊、及びこちらの世界への進入不可状態にしました。成功と言えるでしょう」
「こんな場所が他にもあるんですかね」
刹那は、しばし考え込んだ。
絵物語でそういう話があった例はなくもない。
それに、ここ一箇所しかないと考えるのも不自然だ。
「あるのでしょうね、多分。けど、胸を張りなさい、一馬。あなたは見事に戦いました」
「侵入経路を作っているということは、魔界は戦争を望んでいるんでしょうか?」
遥が問う。
「……興味本位でこんな大掛かりなことはしないでしょうね」
刹那は、自分で言っていて、少し背筋が寒くなった。
この洞窟のような場所が他にもあったなら。そこから魔物がはいでてきたなら。
世界は間違いなく混乱に陥る。
「まあ、今日はその企みを一つ破ったということで、豪勢な食事でもとりましょうや」
「ですね」
刹那は苦笑した。
将来の不安ばかり考えていても仕方がない。
一日、一日を大事にするだけだ。
こうして、洞窟の不思議な探索は終わりを迎えた。
第四十二話 完
次回『月が綺麗ですね』




