悲しい再会
激戦に激戦を重ねた。
刀は油で切れ味が鈍り、その刀を持つ手は下がり、体中は汗まみれだ。
一時間ぐらい戦っただろうか。
この場にいるギガス部隊は底をついたようだった。
その次にやってきたのは、混成軍としか言いようがない部隊。
ゾンビに、鬼に、中身のない鎧の騎士。様々な敵がいる。
「ふむ」
刹那は、呟くように言う。
同時に、彼女はキュアーを発動させた。
疲労が、体から抜け出ていく。
「ギガス部隊だけでなくこの大軍。ここはどうやら、人間界ではないと認めるしかないようですね」
人間界では、ない?
一馬は背筋に悪寒を覚えた。
つまり、今まで倒した敵はほんの前哨戦にもならないということだ。
敵の集団の中から一匹が飛び出し、シャロに蹴りを放った。
それを、シャロは躱して、肘打ちを狙う。
しかし、それは相手が体を反らして躱した。
相手は地面に降りた後も回転蹴りを放ったり上段蹴りを放ったり次々に攻撃を重ねる。
シャロは躱しながらも、戸惑った様子だ。
相手は、後方へと飛ぶ。
「お前も黒猫だろう。何故人間界に利することをする」
相手の頭にも、黒い猫耳がある。尻尾が苛立ちを表すように左右に揺れていた。
「姉さん……?」
シャロは、戸惑うように言う。
しかし、戸惑ったのは相手も同じらしい。
「姉さん、だと?」
「私だよ! シャロだよ! もう一人のお姉さんと一緒に、箱の中で育てられた!」
「私には姉一人しかいない。他の家族などいない」
「嘘だ! 祭りの日に外へ出て帰って来なかった。それが私と姉さんの別れ」
相手は、戸惑うように額に手を置いた。
そして、しばし考え込む。
その目に、決意の光が宿った。
「戯言で混乱させようとでも思ったか。お前はここで死ぬ」
「母さんのことも忘れてしまったの?」
シャロが、悲鳴のような声で言う。
それは、敵が突撃してくる雄叫びに掻き消された。
オーク部隊が槍を一列に構えて突進してくる。
「飛燕!」
遥が飛燕を発動させるが、遅い。
攻撃範囲が広がるその手前の位置まで、オークは突進してきていた。
刹那が宙を飛ぶ、そして、剣を一閃させて槍を切り落とした。
オーク部隊が退いていく。
「一馬」
「なんです?」
「あなたのような弟子を残せたことが、私の一生の成果なのでしょう」
「やめてくださいよ、師匠。今生の別れのような」
刹那の顔を見ると、彼女は切なげに微笑んでいた。
「ばいばい」
そう言われた瞬間、一馬は後頭部に衝撃を受けて、意識を失った。
第四十話 完
次回『我が名は赤羽刹那』




