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第六席再び

 今回の移動は馬車だった。

 なにやら、依頼主が手配してくれたらしい。

 揺られながら、座って過ごす。

 シャロは猫になって一馬の膝の上で寝息をたてていた。


「やっぱり馬車だわさ」


 静流が満足げに言う。


「お前、体力ないもんな」


「私は魔術師だから体力はいらないんだわさ」


「そうか?」


 そう言ったのは遥だ。


「魔力を使うたびに寝込んでいる気がするが」


「魔術に必要なのは集中力。それを大量に消費したら寝込むのは自明の理だわさ」


「体力の問題な気がするけどなあ……」


「うむ、まったく」


 静流は頬杖をついて溜め息を吐いた。


「まったく、脳筋コンビだわさ」


「言ったな」


 遥が腰を浮かせる。


「そういうところが脳筋なんだわさ」


 遥はしばらく考え込んでいたが、悔しげに座り込む。


「けど、戦力としては信頼してるだわさ」


「……当然だ」


 遥はそう言って、鞘に入った刀を抱えた。


(そういえば静流の猫は攻撃向けなんだっけ……)


 記憶を辿ってみる。


(攻撃してるの、見たことねえなあ)


 氷のドームを作ったり、雨を降らせたり、フォロー役に回っていることが多いように思う。


(俺とどっちが強いんだろう)


 そんなことを思う。

 魔術と剣術は別ジャンルだとはわかっているのだが。


「目的地ですよ」


 声がして、馬車は止まった。

 各々、荷物を持って馬車から降りる。


 目の前に広がったのは、地面にできたとてつもなく大きな穴だった。

 鞘に入った刀を杖のようについて、一人の女性が立っている。


「師匠!」


 一馬はシャロを抱き上げて、刹那の傍に駆け寄っていく。

 シャロは迷惑げに顔を上げ、そして刹那の顔を見ると一馬の腕から降りた。


「刹那。久しぶりにゃ」


 刹那は微笑んで、一馬の顔を見上げる。


「な、なんです?」


「順調に実力を上げているようですね」


「そうですか?」


「気配だけでもわかります。以前より引き締まった気配がする」


「結城さんといいそういうものですか」


「そうそう、結城くんと対等に立ち会ったようですね」


「断界あってのことです」


「十剣の間でもその話は語り草になっていましてね。師匠として鼻が高いです」


 一馬の胸は弾んだ。


「師匠に教えてもらって今があります。師匠に恩返しできたなら、これ以上の幸せはありません」


「うん。君は強くなっても素直だ。いいことです」


 そう言って微笑むと、風に押された髪を手の甲で払い、地面に空いた穴に視線を落とした。


「この穴から不吉な気配がします」


「どこまで続いてるんでしょう?」


「小さな層をいくつも重ねた構造のようです。果ては誰も知りません。上から調査を依頼されたものの、この気配を前にして、一人では若干心許ない」


「それでギルドに依頼を出したわけですか」


「君達は暇をしていると聞きましたしね」


 痛いところを突かれて一馬は黙り込む。


「名声稼ぎをしてもいいんですよ?」


 そう言って、刹那は妖しく微笑む。


「今の状態で十分だけどなあ」


「それは欲がない。君には実力がある。それは、君と触れ合った十剣の総意です。もっともっと有名になりなさい」


「……なんか気がついたら十剣の一人になってそうで不安です」


「それも人生じゃないですかね。結婚で困らずにすみますよ」


「モテモテですか?」


「男性としてはモテモテ。女性としては……」


「女性としては?」


「男がよってきませんね」


「師匠こそ休むべきじゃないでしょうか」


「私は現状に満足しています。適齢期になったら見合いでもして無理矢理にでも結婚してみせますよ」


 この人の旦那になるにはよほど肝っ玉が座ってないと無理だろうな。

 そんなことを、一馬は思う。


「それでは行きましょうか。洞窟のダンジョンへ」


「はい!」


 どこまで続くかわからないダンジョン。

 その攻略に、一行は取り掛かることになった。



第三十五話 完


次回『洞窟の中へ』

今週は、トラブルがなければ土、日をかけて九話投稿しようと思います。

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