少し、距離を縮めて
「流石は七公と言ったところか。火事で被害は甚大」
本当に惨事だと思っているのだろうかというぼんやりとした表情のスピカが言う。
「けど、ここで止めれて良かった。飛燕、俺も覚えたいなあ」
「技にも適正というものがあるからね。あなたは近距離戦の技に長ける反面、遠距離戦の技が不得手なんでしょう」
「そういうものですか」
「そういうもの」
シオンが指示をして町の再建が進んでいる。数日したら王都から木材なども届くようだ。
「スピカさん」
「なに?」
「スピカさんも亜人でしょう?」
スピカはぼんやりとした表情の端を少し硬直させた。
「何故わかった?」
「名前と、猫と契約してないことと、独特の雰囲気から。うちの猫も蝶々を追いかけて遊んでいたので」
「ふむ。隠しているつもりなんだけどね」
「隠しているつもりなら、なんで名字と名前を作らなかったんです?」
スピカはしばらく黙っていたが、そのうち語りだした。
「私は、自分を産んでくれた両親を愛している。尊敬もしている。だから、名前は捨てたくなかった」
「……あなたが十剣で良かった」
「どういう意味?」
「尊敬できる人が十剣で良かったという意味です」
スピカはまたしばらく黙り込んだが、苦笑した。
「一馬は素直だね。もっともっと話していたいという気分にさせられる」
「いくらでも話に付き合いますよ」
「いえ。その役は、シャロにお任せするよ」
そう言うと、スピカは去っていった。
最後まで掴みどころのない人だったな。そんな風に、一馬は思う。
+++
シャロの姉が亜人公の元にいるという話は、一馬と遥の秘密となった。
魔界は魔物の巣窟。人間と猫が組んだところで生き残れる場所ではない、というのが二人の結論だった。
つまるところ、無理だから諦めたのだ。
一ヶ月ほど、ぼんやりとして過ごした。
ギルドの依頼がかかり、出発の日がやってきた。
ラピが花束を持ってシャロに手渡す。
シャロは片腕でラピを抱き寄せ、頭を撫でた。
そして、一行の冒険が再び始まった。
途中、夜になり、不寝番を交代しながら焚き火を見る。
一馬とシャロの番になった。
一馬は木を背にして座っている。
しかし、シャロは傍によってこない。
「いい町だったな。普段は黒猫だって隠してたから、息抜きになったろう」
「そうだね。いい町だった」
沈黙が漂う。
一馬は、立ち上がってシャロの傍に近寄ると、彼女を抱き上げた。
「にゃっ?」
シャロが戸惑いの声を上げる。
そして、元いた木の傍に下ろすと、自分は木に体重を預けた。
「俺さ」
「なにさ」
「子供はいらないと思ってるんだよな」
シャロのエメラルドグリーンの瞳が徐々に見開かれていく。
「だからさ」
「その先はいいにゃ」
そう言うと、シャロは一馬に頬ずりした。
手と手が繋がれる。
少し、距離が縮まったのを感じた一夜だった。
第三十四話 完
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