パートナーの絆
それは、亜人の町へと進む道中だった。
日差しが暖かいので、シートを広げて食事を取ろうということになった。
一馬は木に体重を預けて座っている。
その横には、シャロがいる。
シャロが一馬によりかかり、その頬に自分の頬をこすりつける。たまに、舐めてきたりもする。
一馬は、自然とシャロの手を恋人繋ぎする。
シャロは抵抗しない。嬉しそうに微笑んでいる。
巨大狼との戦いからというもの、仲が深まった感がある。
「亜人の町かあ。こういうのを見てると、行かないほうがいい気もしてくるだわさね」
静流が呆れたように言う。
「なにか問題があるのか?」
シャロに頭を擦り付けられながら、一馬は問う。
「この世界の亜人というのは、大半が猫と人間のハーフなんだわさ」
「猫と人間のハーフ……?」
一馬は戸惑いがちに呟く。
中々に想像がつかない。
「色々なハンデを背負ってる連中だわさ。見ても今まで通りでいられるか……」
「不吉なことを言うなあ」
シャロが表情を曇らせて、一馬の肩に頭を載せる。
繋いでいる手を離して、その頭を撫でた。
日光を存分に味わった暖かい髪の毛だ。
「俺達はなにも変わらないよ」
「……うん、そうだよね」
シャロはそう言って、微笑んだ。
+++
亜人の町に辿り着いたのは、王都を出て五日後だった。
門の前で、黒猫の顔をした人間が待ち受けていた。
その容貌に、ぎょっとする。被り物だろうか、とも思う。
「こちらは亜人の町ですにゃ。どういうご用件ですにゃ?」
「王都からの推薦状が出ている。確認してほしい」
そう言って、遥が書類を取り出す。
猫の顔をした人間は弱ったな、と言いたげな表情になった。
「ちょっと待っててもらってもよいですかにゃ?」
「かまわないよ」
その返事を聞くと、猫の顔をした人間は町の中に入っていった。
毛深い門番が二人、その後に残る。
毛深い、なんてものではない。腕が黒い毛に覆われている。
三分ほどして、猫の顔をした人間は戻ってきた。
鎧を着た女性を伴っている。
「申し遅れましたが、私はシオンと言います。こちら王都十剣第七席、スピカさんです」
スピカは前に出ると、推薦状を手に取った。
そして、それを天に透かす。
「光によって色を変える七色の判。本物ですね」
スピカはそう言って、推薦状をシオンに渡した。
シオンは安堵したような表情で、推薦状に判を押した。
「いらっしゃいませお客様。姉探しということですが、黒猫探しならばここが国内で最も適しているでしょう」
「どういうこと?」
シャロが不思議そうに訊く。
「私の容貌を見ていただければわかると思いますが、黒猫はここでは差別されぬのです」
シャロの拳が強く握りしめられる。
姉がここにいるかもしれない。そんな希望を持ったのだろう。
「それではどうぞ、町内を探索ください」
門番が槍を地面に立て、胸を張る。
その横を、一行は通り過ぎていった。
亜人の町の探索は、始まったばかりだ。
第三十話 完
次回『王都十剣第七席 スピカ』
今週は火曜更新となります。
トラブルがなければ五話ほど更新します。




