さらば王都
シャロを結城宅に連れて行くと、大歓迎された。
「黒い髪が綺麗ねえ」
そう言って微笑んで結城の妻がシャロの帽子を取ろうとする。
シャロは慌てて帽子を掴んだ。
結城の妻は戸惑うような表情になる。
「?」
「この三日月のアクセサリー、一馬の贈り物なんです。だから、帽子はあんまり脱がないんです」
咄嗟についたにしてはうまい嘘だなあと思う。
「あらあらまあまあ」
結城の妻は愉快げに微笑む。
「結城さん。この二人、ラブラブ」
「ち、違います! 私と一馬はそんなんじゃ」
「またまた~」
「やめなさい、食事にしよう。それにしても時間がかかったね、一馬。刀を見せてくれるかい」
シャロが料理を食べ始める。
一馬は、無言で結城に刀を鞘ごと手渡した。
結城が鞘から刀を抜いて、明るい場所で見るとよくわかる。
刃は欠け放題で、ところどころ峰にまで届かんかという傷がある。
「これは、もう使えないね」
結城は、無情にもそう言った。
「師匠から貰った品だったのですが」
「物は壊れる時は壊れるよ。大丈夫。第六席贔屓の刀匠を紹介するよ」
「ありがとうございます!」
また、師匠と同じ刀を振れる。それが、一馬には嬉しかった。
「それで、お前の刀をそこまで傷だらけにしたのは何者だい?」
一馬はしばし考え込んだ。告げ口をしている生徒の気分になったのだ。
だが、隠していても仕方がない。
「鬼人公斬歌」
「ふむ……」
結城は考え込む。
「ゲートがあるんだよ」
「ゲート?」
「手に負えない魔物を魔界に封じ込めたゲートだ」
「けど、そんなものがあるなら」
「そう。鬼人公は勿論、ドラゴンも吸血公も巨大狼もこちらには来れない」
沈黙が場に漂う。
「結界に綻びができているのかもしれんな」
そう、結城は呟くように言うと、いたずら坊主のように笑った。
「まあ、今日は食べよう。難しいことは明日でもなんとかなる」
+++
「で、次の目的地は亜人の町?」
遥の問いに、一馬は頷く。
「一度見ておけと言われたし、シャロの姉の情報があるかもしれない」
「ここまで来るには快適な馬車の旅だっただわさねえ」
「徒歩だ」
「これだから脳筋は困るだわさ」
「馬車に金使うなら美味いもの食べたほうがよくね?」
言い合いながら、三人と三匹は進んでいく。
亜人の町を目指して。
第二十九話 完
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