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鬼人公斬歌

 刀と刀が幾重にもぶつかりあう。

 逸らす、なんてできない。速度が近すぎる。

 刃と刃はぶつかればぶつかるほど欠けていった。


「互角、か……」


 そう言って、相手は後方へ跳躍する。


「面白い。ただの転移者がここまで育つとは」


 一馬は一時的にゾーンを解く。

 緊張感が強すぎて、強制的に解除されたといったほうが正しいかもしれない。

 結城戦は緊張している余裕すらなかった。それを思えば、この相手はそれよりも弱い。


「刹那さんのおかげだ。強くなれる基礎を教えてもらった」


「ふむ」


 相手が視界から消えた。

 それより数秒早く、一馬はゾーンに入る。


(後ろ!)


 そう思い、横薙ぎに一撃を繰り出す。

 しかし、刀は虚しく空を切った。


(感じろ、殺気を……!)


 そして、一馬は上を向いた。

 敵が落ちてくるところだった。


 回避して、後方へと跳躍する。

 相手の攻撃は石造りの道すら貫いた。


 そして、相手は刀を石から抜き、一馬に向き直る。


「ふむ、この状態ではやはり互角か」


 そう言って、目を見開いた。


「本気を出させてもらおう」


 その次の瞬間、一馬は蹴られて吹き飛ばされていた。



+++



 遥は刀を使って女性と戦っていた。

 実力伯仲。夜の闇の中に幾重もの火花が散る。


 ゾーンに入らなければ。

 遥はそのことに意識を集中する。


 しかし、できない。

 才能の差か? 生まれ持ったもので結果が決まってしまうのか?

 自分をいじめることは十分にした。

 それでも不足しているのか?


「雑念が多いですね」


 鈴の音色のような声で女性は言う。


「好都合」


 そう言って、女性は刀を鞘に収めて構えた。

 居合。

 その一撃に備えて、遥は構える。


 刀と刀がぶつかりあった。

 遥の刀は、半ばから折れていた。


「うおおおおおおおお!」


 刀を犠牲にした次元突が、相手の胸に突き刺さった。



+++



 男のフードが脱げていることに、一馬は気がついた。

 激しい動きをしたからだろう。

 フードの下から現れた男の顔には、角が一本あった。


「鬼……?」


 戸惑いながら一馬は言う。

 鬼は、ふと気がついたようにフードの位置を確かめた。


「ふむ。ここまできては隠すわけにもいくまい。鬼人公斬歌とは俺のことだ」


「七公……? なんの用で王都まできた!」


「なに。お前の実力を測るためよ」


 そう言って、斬歌は跳躍した。遥に向かって。

 一馬も慌てて遥の傍に跳躍した。


 遥は斬歌の一撃を刀で受けとめたものの、吹き飛ばされて街路樹にぶつかった。


「大丈夫か」


 斬歌は女性を抱き上げて言う。

 そのフードが落ちる。

 角が二本。彼女も、鬼だ。


「それしきの傷、我々ならば再生できるはずだろう」


 女性は荒く呼吸をして、血を吐いた。


「どういう手品だ。人間」


「次元突」


 遥が答える。


「突いた先を別次元まで貫く技。それが残り続ける限り、治療も治癒もできない」


 斬歌は、渋い顔で女性の体を下ろす。

 そして、膝をつくと、頭を下げた。


「すまない。どうか私の女房を助けてはくれまいか。もう襲わないと誓おう」


 そう言って、斬歌は刀を遠くに捨てた。

 一馬と遥は顔を見合わせた。



+++



 遥の手から放たれる治癒の光が、女性の胸を癒やしていく。

 次元突の効果は既にキャンセルされている。


「すまない。助けてもらって」


 斬歌が、一馬に言う。


「これは礼だ」


 そう言って、斬歌は掌サイズの宝玉を一馬に手渡した。


「鬼子玉と言う。よほど危機に陥った時は使ってくれ」


「効果は?」


「秘密だ。回数も一度きりだ。それ以上のことは言わん。さらばだ」


 そう言うと、斬歌は妻を抱き上げ、跳躍していった。


「鬼人公かあ……ブラドは性質が厄介だった感じだけど純粋に強いって感じだな」


「ずるい」


 遥が苦笑交じりに言う。


「俺もボス格と戦う力がほしい」


「手伝うよ」


「教わるのも癪だなあ」


「なんにせよ、戦いは終わった……あ」


 一馬が、間の抜けた声を上げた。


「どうした?」


「シャロを結城さんの家に連れてくの忘れてた。走っていってくるわ」


「警護兵に捕まらんようにな」


「おう!」



第二十八話 完

次回『さらば王都』

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