王都十剣第一席 天道寺結城
「はー広いなあ」
感嘆混じりに言いながら進むのは、一馬だ。
「それは王都だからな、広くもあろう」
遥は淡々とした口調で言う。
「おのぼりさんだわさ」
静流が滑稽そうに笑う。
「なんだ、やるか? ちんちくりん」
「私の範囲魔法に勝つ自信はあるだわさ?」
「……ない。正直別畑だ」
「はは、正直だわさ」
町一個を封鎖する静流の範囲魔法。それを、一馬は目の当たりにしている。
第二の門が見えてきた。
一馬は招待状を見せて、中に入れてもらう。
「ここから先は貴族の住処だ。下手な真似はするなよ」
「気をつけるよ」
遥の忠告に一馬は素直に頷く。
「広い建物ばっかりだね」
シャロが一馬の服の裾を握りながらおっかなびっくり言う。
「金が集まる場所だからね。けど、刹那さんの家も広かったでしょ?」
「そこまででもないよ。それより広い建物が一杯。ちょっと信じられないな」
実際、広い建物が多かった。学校ほどではないものの、それと一軒家の中間ぐらいの建物が多い。
そこを通り過ぎると、最後の門だった。
緊張しつつ、招待状を門番に見せる。
「しばし、お待ち下さい」
そう言って、五人いる門番のうち一人が、城に入っていった。
しばらくして、彼は一人の騎士を連れて戻ってきた。
「やあ、長旅ご苦労様」
そう言って、騎士は爽やかに微笑む。
勇者、なんて人がいるなら、彼みたいな人なのだろうなと一馬は思う。
端正な顔立ち。太くはないが筋肉で引き締まった腕。隙を見せない立ち振舞。銀色に輝く鎧。腰には剣がある。
「俺は王都十剣第一席、天道寺結城」
その一言に、一馬は目を見開いた。
刹那や朝より上位の騎士。それどころか十剣の頂点が彼なのだ。
「案内を勤めさせてもらうよ」
そう言うと、彼は歩き始めた。
シャロを除き、大人しくその後に続く。
元から、シャロは留守番をする手はずだ。興味本位でここまでついてきただけで。
「おや、帽子の彼女はついてこないのかい?」
結城は不思議そうに言う。
「ええ。偉い人と会うのが苦手だそうで」
結城は苦笑する。
「我が皇帝はまだ若い方だ。気さくに相手をしてくれるよ」
「それはありがたいですね」
「ところで一馬くん、近接技術の数値はどれぐらいかな?」
「千五百ぐらいでしたかね……」
「俺が感じた数値よりは少ないな」
結城はそう言って、顎に手を置く。
「三千ぐらいいってると思うよ、俺は」
「滅相もない」
「第一席の俺が言うんだから間違いないさ。七席ぐらいまでは倒せる算段だ」
どう返事をしたものだろう。十剣に入る気はないので、嬉しい、という思いはない。認められた喜びはあるが。
「……そうか。十剣に興味はないか」
結城は苦笑交じりに言う。
「いえ、滅相もない」
一馬は慌てて両手を振る。
「ただ、旅ガラスの方が自分の性にあってると思っているだけです」
シャロの姉を探さなくてはならない。そのため、幾つかのエリアを割り振られる十剣の仕事は向いていない。
「君は奇特な人だなあ。それじゃあ、これからの皇帝様の提案もそんなに嬉しくはないかもね」
結城はそう言って、苦笑した。
玉座の間がやってきた。
結城が跪き、一馬達もそれに習う。
中年の筋骨隆々とした男性が、頬杖をついて玉座に座っていた。
皇帝に違いないだろう。
「そなたらが、竜を倒し、ブラドを倒し、巨大狼を倒したという冒険者か」
重々しい声で皇帝は言う。
「はっ」
「面白い。さらに一人は異世界人だそうだな」
「はっ、俺です」
「私の祖先も異世界人だった。その不条理の力は絶大なもので、魔物を魔界に押しやることに成功した。政治はちと苦手だったと聞くがな」
「俺は十剣にも届かぬ若輩者です。修行中の身ゆえまだまだ力不足です」
「そう謙遜することもあるまい。お主達の冒険譚、話してみせよ」
一馬は、隣に座る二人と目配せしあった。
どうしたものだろう。自分のことを語るのが一馬は苦手だ。
「私は、同僚を殺したことがありました。それで荒んでいた時に現れたのが、一馬でした」
遥がとつとつと話し始める。
皇帝は、まるで少年のような目でそれを聞いていた。
+++
長い話が終わった。
「第六席に磨き上げられ、第九席のおかげでさらに理解を深める。上に立つ人間には出会いや人材が集まるというが、お前はそうなのかもしれんな」
「滅相もない」
「そこでだ。お前達に四等貴族の座を与えようと思うのだが、どうかな」
周囲にざわめきが走った。
「と言っても、三人で一つだ」
一馬は、救いを求めるように遥を見た。
遥が、小声で説明する。
「領地をくれるってことよ。そこに含まれる村から税収を貰える」
「ありがたいお話です」
そう言って、一馬は頭を下げる。
「……あまり乗り気じゃないようだな?」
「我々は旅ガラス。領地を貰っても守ることができません」
「なに。傭兵を雇えばいいのだよ。冒険者ギルドでは暇を持て余している人間が何人もいる。その中で何人かをスカウトして、赤字にならない程度の給料をやればいい」
「なるほど……」
一馬はしばらく考えて、もう一度頭を下げた。
「その話、ありがたくお受けしたいと思います」
「ただし、条件がある」
皇帝の言葉に、一馬は戸惑った。
条件?
魔物討伐なら王都十剣がいるから困ってないのではないだろうか。
いや、冒険者ギルドもあることだし、カバーしきれない問題があるのかもしれない。
「結城と御前試合をしてもらう」
「は?」
一馬は思わず間の抜けた声を上げた。
「時間は明日の太陽が最も高く上がった時間でいいだろう。お前の実力、見せてもらおう」
「俺は弱いとは思いませんが、結城さんを相手どれるほど強いとは思えません……」
「なに。善戦すればいいのだよ。勝てるとは思っていない。無様に逃げ回るのだけはよしてくれよ」
そう言って笑うと、皇帝は去っていった。
結城が、一馬の肩を叩く。
顔には同情の色があった。
「ああいう方なのだ。すまないな」
「いえ……王都十剣第一席。相手にとって不足はありません」
自分を鼓舞するように一馬は言った。
「こいつう」
そう言って、結城は一馬の肩に手を回して、頬を押し回した。
第二十五話 完
次回『御前試合』
珍しく金曜投稿となりました。
トラブルがなければ五話ほど投稿したいと思います。




