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一時の別れ

「いってきます」


 そう言って、シャロは数日過ごした拠点を後にした。


 王都へ向かって馬車が進んでいく。

 朝は毛革のマントを、一馬と遥と静流はそれぞれ毛革の防具を身につけている。


「と、ということで、三重人格なのです」


 朝の告白を疑うものはいない。

 一晩かけて狼の革をはいだ時、彼女の放った鋭い指示は普段の彼女のものではなかったからだ。


「弓を使うのが朝。竪琴を使うのが昼。剣を使うのが夕。内緒にしてて、その、ごめんなさい」


 朝は小さくなる。

 沈黙が馬車の中に漂った。

 どうしたものだろう、というのが遥と静流とシャロの感想のようだった。


「いいんじゃないの」


 一馬が言う。


「それも個性さ」


 その一言に、朝はときめいた。

 個性。

 その一言に昇華してくれる人が、世の中にどれほどいるだろう。

 どれだけ、この症状で恐れられてきただろう。どれほど、この症状で同情的な目で見られてきただろう。

 一馬は自分を、対等に扱ってくれた。


 朝は馬車の手綱を離すと、一馬の傍に座った。


「朝さん?」


 戸惑うように、一馬は言う。

 朝は、その頬にキスをした。


「もしも結婚相手が見つからなかったら言ってください」


 そう言って、朝は微笑む。


「私がお嫁さんになってあげるから」


 一馬は、顔が真っ赤になる。


「い、いや、俺はまだ結婚だなんて」


「先の話ですよ。まだまだ先の、話」


 そう言って、朝は席に戻り、手綱を握る。

 剣呑な空気が馬車の中に広がっていた。


「朝は存外鈍感だにゃ」


 相棒の垂れ耳猫が言う。


「そう?」


「まあ、そこが強みでもあるにゃ」


「そっか」


 清々しい晴れの日のことだった。




+++




 そして、一同は王都に辿り着いた。

 巨大な門に圧倒されている一馬の横で、朝は警備兵に対して書類を提出したりしている。


「良かったですねえ、輸送中に孵化しないで」


「ええ、本当。最近暖かいですからね」


 そうして、書類の整理を終えた。


「じゃあ、一馬くん。私はここまでです。警備兵さんに城への行き方を聞いてください。これ、招待状です」


 そう言って、朝は手紙を差し出してくる。

 一馬は馬車の外に出て、それを受け取った。


「ありがとう、朝さん。朝さんには世話にもなったし、色々なことを教わった」


「いえ。私も旦那候補ができて嬉しい限りです」


「またそうやって人をからかう」


「からかってませんよ」


 朝は、まっすぐに一馬を見る。


「それとも、今から口にしましょうか?」


「さあ、城へ行こうか一馬!」


 シャロが、一馬に背後から抱きついて提案する。


「そうだな、城へ行こう」


 遥が、ぐりぐりと一馬の頭を撫でる。


「わかったわかった。そんなに王様と会うのが楽しみなのか。俺は憂鬱だけどなあ」


「覚えよければこれから先の冒険に色々便宜を図って貰える。会う以外の道は無いよ」


 遥が言う。


「嫌われたら?」


「他の国に行けばいいだろう」


 淡々ととんでもないことを言う。


「それじゃ、行こうか」


 一馬はそう言って、遠くに見える城を見る。


「ああ、行こう」


「私も偉い人と会うのは憂鬱だわさ」


 一つの冒険が終わった。

 けど、次の冒険が一行を待ち受けていた。



+++



「二匹の息子は帰らず、か」


 斬歌がテーブルの上で足を組みながら言う。


「どうも一匹は第九席にやられたらしいが、もう一匹は十剣の弟子に屠られたようだ」


 マーナガルムは淡々とした口調で言う。


「跡継ぎに頭を悩ませるとこよな」


 リゼルグが言う。


「いや、むしろ解決したのだよ」


 マーナガルムは言う。


「二人の息子は好戦的過ぎた。乱世なら英雄になれたかもしれんが、今は平時。これ以上人界を刺激する人材を頭にするわけにはいかん」


「ほう……」


 斬歌が目を丸くする。


「つまりこれは、マーナガルム殿の策であったか」


「ご想像にお任せする」


 そう言って、マーナガルムは席を立った。


「俺も一度見てみたいな……」


 斬歌が、呟くように言う。


「変なことは考えていまいな。七公の中でも鬼人族の中でも頭が一番回るのはお前だ」


「なに、ほんの娯楽さ、娯楽」


 そう言って、斬歌は小さく笑った。



第二十四話 完



次回『王都十剣第一席 天道寺結城』


今週の更新はここまでです。

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