数十年に及ぶ平和はすぐそこに
勇者一馬の冒険、という本がある。
伝記である。
それを求めて、愛の孫娘である雫は王宮の図書室に篭っていた。
しかし、探しても中々出てこない。
名前を間違えているのかな、とも思う。
そのうち、本を取る一本の腕が見えた。
本のタイトルが見える。
勇者一馬の冒険、と書かれていた。
「あ、それ、私も探してて!」
「僕も探していたんだ」
「どうにか譲ってもらえないでしょうか」
「嫌だと言ったら?」
「拗ねます」
腕の主、青年は、苦笑した。
「それじゃあ一緒に読まないかい?」
「私、読む速度半端じゃなく速いですよ」
「いいよ。僕も本は読み慣れている。しかし、気恥ずかしいものだな」
雫は、始めて相手のことを意識した。美青年だ。
「身内の馴れ初めなんかを書かれた本を読むのは」
雫は、目を丸くした。
身内、と今言っただろうか、この青年は。
「今度冒険の旅に出ることになってね。先達の冒険を見ておきたくなった」
「なるほど。王宮の兵士さんですか」
「そんなとこだ。さあ、読もう」
そう言って、二人はテーブルに並んで座る。
それはまだ、遠い未来の話。
+++
時間は現代に遡る。
一馬は木陰でシャロの膝枕で寝ている。
子供達は木剣を振り回して騒いでいる。
シャロの手が、一馬の頭を撫でる。
「君は、全てをくれた」
一馬は、呟くように言う。
「家庭、子供、愛情、そして命までも」
「まだまだ長生きしてもらわなきゃ困るからね。子供が自立するまでは生きててよね」
「それじゃあ俺がどっかで死ぬみたいだ」
「死んで帰ってきたのは誰でしたっけ」
シャロはからかうように言う。
一馬は唸っていたが、そのうち苦笑した。
「面目ない」
「二人で子供の成長を見守りましょう。それも、結構な冒険よ?」
「今度、近隣の国と同盟を結ぶ会議があってだな」
「うん」
「護衛に呼ばれている」
「大丈夫ー? 腕鈍ってるんじゃない?」
「大丈夫さ。結城さんがいる」
「そっか。二人が揃えば怖いものなしね」
「そゆこと」
「見ててくれよシャロ」
「なにを?」
シャロは優しい表情で言う。
「俺達が、平和を作っていくんだ。幾十年に及ぶ平和を」
「……君はやっぱり、父である前に勇者だね」
「そして勇者である前に父だよ」
シャロは苦笑して、再び一馬の頭を撫で始めた。
何十年にも及ぶ平和は、すぐそこまで近づいてきていた。
完
お付き合いいただきありがとうございました。
次回作も頑張ります!




