道化師は踊る
「とりあえずこういうのは人海施術だべ」
そう言って、一馬は冒険者ギルドに依頼書を出した。
内容は簡潔。
三年前の祭りの日、黒猫を見た者はいるか探して欲しい。
「大丈夫かねえ」
ついてきた遥が不安げに言う。
「嘘だろってのもあるだろうから吟味しないとな」
一馬は顎に手を置き、淡々とした口調で言う。
「まあ、また明日って感じか。一個でも情報が手に入るといいな」
「そうだな」
一馬が去っても、依頼書は残り続ける。
そして、情報が手紙となって送られてくるようになるのだ。
何通来るかわからないそれの中に、シャロの姉の情報が残っていることを、一馬は祈った。
「黒猫だぁ?」
依頼書を見て、長剣を持った冒険者が怪訝そうに言う。
「確かに三年前の祭りの日にはいたな」
鎖帷子を着た冒険者が淡々とした口調で言う。
「捕まったよな」
「うん、捕まった」
「その話、聞かせてもらえませんか」
一馬は二人の間に割って入る。
「あんたが依頼人か?」
「ええ、そうです」
「じゃあ細い詮索はしまい。報酬、いただくぜ」
「はい!」
道が先に繋がった。その先にあるのは光か闇か。
一馬は心音が高鳴っていくのを感じた。
+++
その日、町は祭りで賑わっていた。
貴族の馬車が走り、その前に飛び出る影が二つ。
黒猫だ。
貴族は不吉だと怒り狂い黒猫を殺すように呼びかけた。
そこに、現れた男が一人。
「ピエロ……?」
冒険者達の説明に、一馬は怪訝な表情になった。
「あー。ピエロなんだな、これが」
冒険者も、自分の記憶を疑っているような状態だ。
「確かなんだったかな。こんな理想個体を殺すなんて愚かしい、だったかな。そう言って、ピエロは瞬間移動すると、貴族の首を素手で断ったんだ」
「この町の祭りの記録にも残ってるぜ」
「そのピエロは、黒猫をどうしたんですか?」
一馬は、身を乗り出して訊く。
「黒猫を抱えて、ピエロは消えた。瞬間移動だろうな」
「そうですか……」
一馬は、気が抜けたように椅子に体重を預ける。
「役に立ったかね」
「その記録とやらを見てからでもいいですかね、報酬は」
「ああ、かまわんぜ」
そうして記録を見た結果、冒険者達の言い分は正しいことが証明された。
一馬は報酬を冒険者達に渡すと、別れた。
徐々に、足早になっていく。そして、最後には駆け足となった。
屋根の上に飛び乗り、人のいないルートを跳躍していく。
そして、全体の窓が開いている拠点に入っていった。
「シャロ!」
叫ぶように言う。
「なんにゃ?」
シャロは、猫モードで、衣服に包まってごろごろしていた。
「お前の姉だけどな。生きている可能性が高い」
シャロはぐっと体全体で伸びをしながら起き上がる。
「……本当かにゃ?」
疑わしげに言う。
その体を抱き上げて、座り込むと、膝においた。
そして、背を撫でる。
「記録にも残っている。お前の姉は、生きているんだ」
「そうか……」
シャロは、人間の姿になった。
膝の上に柔らかい感触を覚えて、一馬は顔が真っ赤になった。
シャロは、一馬に抱きつく。
「ありがとう、一馬。ろくでもない人生だと思ってたけど、君と会ってから世界に光が見えた」
「大袈裟だなあ」
一馬はついつい照れてしまう。
そして、猫耳のついた頭を丁寧に撫でた。
「姉は、この世界のどこかにいる。きっと、また会える」
そう言って、シャロは希望が見えたとばかりに空に視線を向けた。
一馬は、苦笑して、シャロを抱きしめようとしたが、照れくさくって身動き一つ出来なかった。
(ああ、童貞ムーブ)
そう嘆いている人がすぐそこにいることをシャロは知らない。
第二十話 完
次回『王都十剣第九席 雲野夕』




