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そして彼も消えていく

「はははは、なにを狙っていたかと思えば本体への一撃か。無駄だよ。君達は所詮台座の中の人間でしかない」


 一馬は無言で悪魔王を斬り続ける。

 だが、効かない。


 悪魔王の体は再生し、胸から聖者の剣を抜こうとした。

 一馬は乱れた呼吸を整え、力を再度貯める。


「やめろ、一馬! それ以上その力を使っては、お前が消滅するぞ!」


「けど、やるしかないでしょう?」


「お前が死んだら、シャロにどう顔向けすればいい!」


「……シャロと息子のこと、お願いします」


 そして、一馬は光輝く剣を振りかぶった。


(落ち着け、一馬)


(新十郎さん?)


 いもしない人間の声が聞こえ、一馬は腕を止めた。


(奴は肉片と本体の中を核が高速移動している。それにトドメを刺さなければ意味がない)


(けど、そんな器用なこと……)


(覇者の剣の光を見ろ)


 覇者の剣は、いつしかまるで太陽のように輝いている。


(魔族、人間族、その、平和への祈り。美しいとは思わないか? 誰もが皆、平和を望んでいる)


 そうだ。誰もが平和を望んでいる。

 誰かが暗躍して戦争が起こったとしても、その心は何度も何度も元の日常を引き寄せるだろう。


(後はお前に託す)


 それきり、新十郎の声は消えた。

 一馬はしばらく黙って呼吸を整えていたが、剣を振り下ろした。



+++



 シャロは、自分の突如の変化に驚いた。

 人間化していたはずなのに、猫の姿に戻ってしまったのだ。

 これでは子供の世話もできない。


 しかし、どうしても人間化できない。

 まるで、契約が切られたように。


(一馬……?)


 一馬が死ねば、契約は切れる。

 まさかな、と思いつつ、隣の結城宅を尋ねた。

 優恵は驚きはすれど、シャロを歓迎してくれた。



+++



 一馬の剣から放たれた光刃が悪魔王の体を徐々に削っていく。


「馬鹿な、私が! この私が! 下等存在などに!」


「お前が下等存在と蔑み嘲笑ってきた存在に脅威に晒される気持ちはどうだ!」


 その時、異変が起こった。

 一馬の体が光りに包まれ、少しずつ消えていく。

 それでも、一馬は断界の力を使うことをやめない。


「一馬、やめろ! 本当に死ぬ気か!」


「新十郎さんは自分の命を未来に繋ぐために戦った」


 一馬は、淡々とした口調で言う。


「次は、俺の番です」


「この、馬鹿野郎!」


 そう言って、結城は剣を走らせた。

 悪魔王の体が横に真っ二つになる。滝斬りだ。


 一馬は、剣を担いで、高々と跳躍した。

 相手はかなり弱っている。とどめを刺すなら、今だ。


「斬岩一光!」


 悪魔王の体は縦と横に真っ二つになり、意識を完全に失ったようだった。

 そこに、一馬は光刃を放つ。


 その体は、既に透けていた。

 悪魔王は、滅んだ。


「……息子の成長を見たかったけど。思い残すことはほとんどない」


「なにを言う、一馬。お前も家に帰るんだ!」


 結城は、一馬の胸ぐらを掴んで言う。


「無理言わないでくださいよ。反動で俺の体は、もう……」


 遥と静流が口々に一馬を呼ぶ声が聞こえる。

 生まれた時は違えど死ぬ時は同じ。

 誓いを破ってしまったな、と一馬は苦笑する。

 そして、一馬の意識は、闇の中に消えていった。



第百九十六話 完



次回『帰還』


本日中投稿予定

良い方向にもう一波乱あります。

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