尊い犠牲
一馬は結城に斬りかかった。
二本の剣が切り結ぶ。
なんて剣圧だ。
本気を出した結城はやはり強い。
ただ、解せぬことがある。
「どうしてあの技を使わないんですか、結城さん」
結城はしばらく躊躇うように黙り込んでいたが、そのうち溜息を吐いて口を開いた。
「記憶にブラックボックスがある。なにかを隠しているな、こいつは」
結城は精一杯キスクの支配から抗っているのだ。そう思うと、勇気が湧いてきた一馬だった。
「お前を必ず結城さんの体からひっぺがしてみせる」
そう言って、一馬は覇者の剣で結城を指す。
「できるものかよ!」
覇者の剣が弾かれる。
斬り返そうと腕が動く。
しかし、相手の方が一手速い。
斬られる。
その直感は、一馬の集中力を爆発的に高めていた。
不条理の力が爆発的に高まる。
そして、一馬の剣は相手の追撃を弾いた。
静流が刹那の太刀で割り込んでくる。
「あんた一人で戦ってると思っちゃ駄目だわさ!」
「けど、全員でかかっては結城さんを殺してしまうかもしれない。結城さんは、助ける」
「……確かに、この男を失った時の帝国の痛手は想像がつかないだわさ」
鱗の刃を光刃で弾き、斬歌の剣を悠々と受けとめ、結城は戦う。
どれだけ実力を隠してきたのだろう。
いや、悪魔王との相乗効果でそうなっただけだろうか。
わからないところだった。
一馬は、再び結城に襲いかかる。
その時、ありえないものを見た。
それは、後ろから結城にしなだれかかるように首に手を回した。
結城は振り向き、光刃を放つ。
その先にいたのは、新十郎だった。
死の危機だと言うのに、新十郎は、笑った。
新十郎の指が結城を操る針を抜く。
そして、その体は真っ二つに切断され、下半身が蒸発した。
第百九十四話 完
次回『何故だ!』
明日投稿予定




