十剣失格
「昔の話だ」
そう言って、一心は剣を杖のように立て両手を乗せる。
「私は十剣に志願した。しかし、解答は、居合使いならもういるからいらない、とのことだった」
歯ぎしりがなる。
「鬼龍院あやめ、遥……奴らが私の道を塞いだのだ」
「ふうん、そんなくだらない理由か」
そう言って、静流はギルドラの剣を後ろに引いた。
そして、目にも見えない速度で前進する。
「刹那の太刀!」
「ぬう!」
一心は、辛うじて避けた。
いい判断だ。避けずにうけていれば刀ごと真っ二つになっていただろう。
そこに、一馬と遥は襲いかかる。
「居合九閃……! 斬華!」
遥の刀が一瞬で九つの斬撃を生む。
その全てを一心は弾き落とした。
「そうか、お前が遥か」
一心の憎悪が周囲に溢れる。
一馬が剣を振る。しかしそれは、不可視のバリアによって防がれた。
一心は遥の首を掴み、持ち上げた。
「どうだ! 私の剣は十剣に通用するぞ!」
遥が苦しげに唸る。
その時、背後から走る影があった。静流だ。
二度目の刹那の太刀。
それは、遥を掴む一心の手を狙っていた。
一心は遥を静流の進行上に移動させる。
静流は、そのまま一心の横を通過していった。
「ゆだん、たいてき」
地下から、白い巨大な腕が現れた。
それは、遥の体重を支え、一心の腕を掴んだ。
「馬鹿な! なんだこれは!」
「結界術。私のあれんじだけどね」
瑞希はそう、淡々とした口調で言う。
「一馬」
促されるままに、一馬は覇者の剣を握って走った。
そして、一心の腕に滝斬りをおみまいした。
一心の腕が大地に落ちる。
彼の腕から解放された遥は、咳をしながら立ち上がった。
「リベンジさせてもらおうじゃないの」
そう言って、遥は鞘に収めた刀の柄を握り、黙る。
一心も、無言で刀を鞘に収めた。
居合対居合。
しかし、遥は距離を置いて射程の外へと逃れた。
「なんだい、お嬢さんも刹那の太刀かな?」
一心の腕の断面から糸が伸び、地面に落ちている腕を引き寄せる。
最早人間ではない。
人とは、ここまで堕ちられるのか。
一馬は、脅威を見ている思いだった。
「違う。これは、師匠と私が生み出した技。その中でも一番新しい技」
「ほう、見せてもらおうじゃないか」
遥は刀を鞘から走らせた。
「飛燕二式・改!」
二式を名乗っているが、飛び散る鳥の影の数は飛燕三式の上位互換みたいなものだ。
一心はその鳥の影の元を全て断った。
「残念だったね」
遥が物憂げで言う。
「飛燕三式の時点でとどめを刺されていれば楽だったろうに」
弾かれた鳥の影が爆散した。
大量の鳥の影が飛び交い、一心の体を削っていく。
「飛燕二式・改は、最初はただの飛燕三式。けど、発射からの溜めを犠牲にして多くの影に力をもたせる」
遥は一心の心臓に刀を刺す。
「居合ができてあなた程度の腕なら十剣にいくらでもいるわ」
「ぐうううおおおおおおおお」
一心が動いた。
肌は削がれ、片腕は失い、多くの血管は断たれ、それでも動いた。
やはり、最早人間ではないのだろう。
一馬は、覇者の剣に光を集めた。
そして、光刃を一心に向けて放った。
一心が蒸発していく。下半身は既にない。
「夢とは、綺麗なものだと思っていた」
一馬は、淡々とした口調で言う。
「けど、こじらせれば邪の性質を持つようになるのだな」
「……そうか。これが敗北を認められなかった男の末路、か」
一心はそう呟くと、完全に蒸発して、その場から消えた。
「いこう。敵のぼすが待ってる」
最初に走り出したのは瑞希だった。
各々、武装を鞘に収め、その後を追った。
第百九十一話 完
次回『思わぬ強敵』
明日投稿となります




