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決戦を前にして

うたた寝してました、遅れて申し訳ない。

 その日、一馬は酒場に呼び出された。

 新十郎とシアンとあやめが既に飲んでいる。

 予想外の組み合わせに戸惑いつつも、一馬は彼らの傍の席に座った。


「店員さーん、酒一杯追加で!」


 新十郎が威勢良く叫ぶ。


「はーい」


 可憐に返事をし、ウェイトレスは酒を取りに移動した。


「いやはや、大変なことになったな」


 新十郎は呆れたように言う。


「そうですね。まったくです」


 一馬はしみじみとした口調で言う。


「あやめさんはお忍びですか?」


「体がなまってるからね。応援ぐらいしかできないわ」


 あやめはそう言って、酒を一口飲んだ。

 ウェイトレスが酒の入ったジョッキを一馬の前に置く。

 この異世界の酒というのが一馬は苦手だった。

 酸っぱいのだ。


 しかし、今はそれを一口でも飲みたい気分だった。


「決戦前って感じだね」


 シアンが、溜息混じりに言う。


「俺も回復役として起用されたからな。他人事じゃねーんだな」


「新十郎さんが回復役?」


「第二席程じゃなくても俺も基礎魔力が高い方だ。回復の力は持ち合わせている」


 そういえば、彼もターンアンデッドで広範囲のゾンビを消滅させたことがあった。


「突入メンバーは決まったのか?」


 シアンに問う。


「結城、新十郎、一馬、遥、静流、神楽、斬歌、私」


「少なくないか?」


「それぞれ自領も守らなければならないからね。もしもあなた達が失敗したら」


「失敗したら?」


「その後はキスクの天下だろうね」


 気が重くなってきた。

 ジョッキの中の酒を思い切り飲む。

 すると、体が火照って、少し気楽な考えが頭に浮かぶようになってきた。


「まあ一人倒せばいいだけです。どうにでもなる」


「宿題はやってきたの? 結城くんはこなしてきたみたいだけど」


「なんとか。決着をつける算段はついた」


「そう。それはいい」


「……俺みたいな凡人が最終決戦メンバーかぁ。気が重いなあ」


「はっ、思ってもないことを」


 新十郎がぼやき、あやめがからかう。


「本気だぜ。天才ってのは結城みたいな奴のことを言うんだ。俺は凡人だよ」


「十剣見習いが聞けばキレるだろうね」


 あやめの言葉に、新十郎は反論の言葉を失う。


「気楽にやりなよ。あんたも天才だ」


「……まあ、逃げるわけにもいかんでな」


「決戦前か……」


 一馬は、呟くように言う。


「シャロには伝えてあるの?」


 あやめが身を乗り出して問う。


「ええ、大まかなことは」


「なら、二人の時間もとってあげるのね」


「どうかなあ。子供を預けることに難色を示すかもしれません」


「そんなにべったりなんだ」


「恋人だと思ってたら嫁になって、嫁になったと思ってたら母親になって。忙しいものです」


「私は子供産んでないからわかんないなー」


「跡継ぎ問題大丈夫ですか?」


「元々魔物混じりってことで難色示されてたからね。それを超えたからまあ大丈夫でしょう」


 なんか近々グランエスタで国が二分するような争いが起きかねないと思った一馬だった。


「勝とう」


 新十郎がジョッキを掲げる。

 全員、そのジョッキにジョッキをぶつけた。


 そのまま、会話も弾まず、近況報告と決戦についての打ち合わせをしただけでその日はお開きになった。

 皆、緊張しているのだと思う。



第百八十七話 完

次回『最後の一人』


本日中更新予定

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