退魔の太刀
「お前の師としての腕は見事だな。八葉は見違えるように強くなった」
弁当のサンドイッチを食べながら結城が言う。
場所は、いつもの滝の傍だ。
「滝斬りさせてちょっと実戦練習しただけですよ。本人の才能の賜物です」
「神楽は少し苦戦しているようだな」
「まあ、時間の問題だと思っています。どこまで不条理の力を受け入れられるか。神楽は俺と同じ異世界人だから、少し頭が固い面があるんですよ」
「それでも、中々の進行具合だ」
神楽は滝を斬る。それは、滝の三分の一ぐらいを断っていた。
「一馬ー、見たー?」
「見てるよー」
そう言って、返す。
「最近山にばかり来ていて世情に疎い。キスク討伐作戦はどうなっていますか」
「第二席……刹那が魔界に出ているよ。退魔滅砕陣で吸血公の領地を塞いでいる」
「なっ……」
一馬は絶句した。
吸血公の領土がどれぐらいあるか知らないが、人間技ではない
「普段は薄く、侵入者が出たら濃く、そんな風に使い分けているようだ。回復の術者も傍についている」
「師匠は融通が利く人ですからね」
「しかし、それもいつまでも甘えるわけにはいかない」
「まったくもって」
「キスク対策はできているか?」
「俺と、覇者の剣があれば、なんとか」
「そうか。俺も技を開発した。問題は、キスクに護衛がついているらしいことだな」
「強いんですか?」
「龍公のバリアを斬り破って軽症を与えた」
「な……」
一馬は絶句した。龍公、鬼人公、彼らの基礎魔力量は生半可なものではない。その彼らの魔力を凝縮したバリアを断った。人技ではない。
「外にいる吸血鬼。中にいる護衛。それらを倒してようやくキスクと対面できる。長丁場になるな」
一馬は黙り込んだ。
キスクを倒せば終わり、という簡単な話ではないわけだ。
「結城さん、見てくれますか? 俺の、新しい技」
「ああ、いいぞ」
そして、一馬は、生えていた一本の木を選んで刀を抜いた。
断界の魔術を刀に込める。
そして、一馬は、木を斬った。
いや、木を斬ったはずだった。
しかしそれは、はじめからなかったようになくなっていた。
「やはり、お前も同じ結論に辿り着いたか」
結城が微笑んで言う。
「では、結城さんも?」
「ああ。これで一人が倒れても、もう一人が挑める。勝利の可能性が増えた」
結城はそう言って、空中にブロックを作り、その上に乗る。
「では、護衛の任に戻る。次に来る時は総攻撃の日頃が決まった時だ」
「わかりました。お互いに頑張りましょう」
「そうだな」
そう言って、結城は去っていった。
「やっぱ強いね」
「うわっ」
いつの間にかずぶ濡れの神楽が傍に来ていたので、一馬は驚いて飛び跳ねた。
「油断しすぎ」
神楽はジト目で言う。
「すまん。久々に話して楽しかったもんでな」
「滝の半分まで斬れるようになった。私の修行もあと少し」
「そうか。軌道に乗ったなら何よりだ」
「人の幸せを壊すことしかできなかった私が、人を守る剣を振るえるようになった。それは私のちょっとした自慢なんだ」
「ああ、そうだ。その剣で、沢山の人を守ってやれ」
「うん」
その時、輝きが周囲を照らした。
邪法の剣の黒い刀身が、輝いて、銀色の輝きを持つようになったのだ。
「これは……?」
「聖なる力を感じる。かといって、以前の力を失ったわけじゃない」
「そっか」
「お前が生まれ変わったように、剣も生まれ変わったんだよ」
「じゃあ邪法の剣なんて呼んでたら可哀想だね」
「そうだなあ。うーん……聖者の剣なんてどうだろう」
「シンプルだなあ」
神楽は苦笑交じりに言う。
「けど、あんたがそれでいいって言うなら、それでいっか」
「なんだそれ」
「なんでもありませんー。修行戻ってきます」
その日のうちに、神楽の修行は一段落がついた。
第百八十六話 完
次回『決戦を前にして』
12時頃投稿予定です。




