邂逅
シアンは吸血公の居城へと瞬間移動していた。
今起こっている不毛な争いは、近隣の地域をも巻き込んでいる。
本人達にそれを止める力がないのならば、他の六公が出張らねばならない。
そして、シアンは城の中を歩いて行く。
驚くほどに人気がない。
床には埃がたまったままだ。
その時、シアンは悪寒を覚えて周囲の気配に意識を集中した。
そして、一体の魔物が隠れていることを看破した。
シアンの体から鱗が剥がれ、それは空を飛ぶ刃となり相手に襲いかかる。
相手は跳躍し、天井を蹴った。
(速い!)
相手は抜刀し、シアンに斬りかかる。
シアンは魔力のバリアを張り、それに対抗した。
相手の刀は、驚くことにシアンのバリアに食い込んだ。
自分の体まで届かなかったことは幸いだが、これには流石のシアンも驚いた。
先代龍公から受け継いだ魔力。それをつぎ込んだバリアを半ばまでとは言え侵入するものがいようとは。
「あなたは……誰?」
相手は一旦距離を取る。
「悪魔王が側近、一心」
(悪魔王……そうか、吸血公近隣の不審な騒ぎは……)
気がついた時には、一心の姿が目の前にあった。
一心は刀を鞘に収め、抜刀の準備を整えていた。
抜刀術が放たれる。
「居合九閃」
九回の連撃をバリアが受け止める。
そして、シアンは相手の攻撃が自分の身に達したのを流れた血で気づいた。
それはほんの些細な傷。
しかし、バリアをくぐり抜けた傷だった。
「ご苦労さん。情報はもらって帰るわ」
そう言って、シアンは手を掲げる。
敵が斬りかかってくる。
その攻撃が当たる刹那、シアンの体はその場から消えていた。
「どうだった?」
リゼルドが言う。
八公会議の会場だ。
既に、他の五公は集まっている。
「吸血公の領地は支配されていた」
「キスクか」
鬼人公が物憂げに言う。
「奴を倒す術、どうにか見つけねばならんな」
リゼルドの言葉に、皆が頷いた。
しかし、決定的な答えは出てこなかった。
「決定的な鍵をにぎっているのはやはり奴らか」
リゼルドは呟くように言う。
一馬と結城。二人の出来次第がこの後の戦況を左右するだろう。
第百八十五話 完
次回『師として』
本日投稿予定




