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それぞれの別れ

「悪魔王は死んでいない?」


 天使の言葉に、一同絶句した。


「そうですよ。悪魔がその世界に侵入する時、仮初の体を作ります。本体を殺さない限り、悪魔王は存在し続けます。配下の悪魔は別物ですけどね。あれはこの世界で作られたものです」


 一馬は顎に手を当てて考え込む。


「神様に頼んで倒してもらう、とかはできないの?」


 遥が問う。


「両者の実力は拮抗しています。なんらかの要因でダメージを受けるようなことがあれば、あるいは」


「わかったよ、ぽんこつ」


「ぽんこつ?」


 一馬の言葉に、天使は眉間にしわをよせる。


「いや、わかったよ、天使。つまり奴は、存在ごと斬らないと復活し続ける。そうだな?」


「そういうことです。私は天使だから仮初の体なんて操れませんけどね」


「それが本体か」


「そうなります」


 その時、天使の羽が二枚落ちた。


「神様からの祝福ですね」


 そう言って、天使は落ちた羽を拾い、一枚を一馬に、一枚を遥に手渡す。


「本来ならこの世界に存在しない物質です。いつか、あなた達の役に立つでしょう」


 一馬と遥は、羽を眺めて、互いを見る。

 そして、服に羽を刺した。


「どうしたものかな」


 リゼルドが言う。


「我々の中に犯人はいなかった。しかし、私はこの地を守りたい」


「俺も不完全燃焼なのはまっぴらだな」


 斬歌も言う。


「私にとっても故郷です。なくなってもらっては困る」


 静流が言う。だわさ言葉は封印しているようだ。

 確かに、六公が味方につけばとてつもない戦力になるだろう。

 しかし、不可侵条約を結んだ間柄だ。用もないのにうろつくような真似はできない。


「……同盟に切り替えましょう。そうなさるように父上に申し出てまいります」


 そう言って、八葉は駆けていった。


「わかったことがある」


 キシャラが、話をまとめるように言う。


「キスクは、魔界、人間界、両方の敵だ。人間だ魔物だと言っている場合ではない」


「俺も同意見だ」


 斬歌は頷く。


「が、しかしだ。自領を守らねばならん。一度は戻らなければならぬだろうな。悪魔達が攻めてきても対抗できる編成をしておかないとおちおち外出もできん」


「そうだな……同盟の件も考える時間がほしかろう。帰るか、魔界へ」


 そう言ってリゼルドは腰を上げる。

 キシャラも腰を上げた。


「訓練のしなおしだ、神楽」


 一条神楽は、邪法の剣を握って小さくなっている。


「十剣の上位レベルまでは実力を高めてもらうぞ」


「まだ人間やめる気はないんですけどね」


「憎まれ口を叩く余裕があるならできるだろう」


「それじゃ龍公、それぞれの領に送ってくれるか?」


 斬歌が問う。

 シアンは聞いていないのか考え込んでいる。


「龍公?」


「あ、失礼しました、鬼人公。私がいなくても国を守れる存在に思い至らなくて……」


「手駒は一番強力な癖に弱気だな」


「そうですね」


 シアンは苦笑して、斬歌に触れた。

 斬歌の体が消える。

 魔界へ帰ったのだろう。


「次は誰が帰ります?」


「私は、もう少しこの地に残りたい」


 リゼルドの発言に、皆戸惑った表情になった。


「それは仕事絡み?」


「私用だよ。いや、感傷かな」


「わかりました。協定違反とみなされないうちに帰る準備を終えてください」


 シアンは淡々と、六公の四体を送っていった。



+++



 八葉は呼び出されていた。

 城の裏庭だ。


 辿り着くと、そこには少し自信がなさ気な青年がいた。


(私はこの人を知っている……)


 八葉は、直感的にそう思った。

 そして、思うがままに口を動かした。


「リゼルド?」


「ああ、そうだ。不死公リゼルド。魔物を統べる者。この姿は、そうなる前の、人間だった頃の姿だ」


「器用ね」


「驚かないんだな」


 八葉はうつむき、そして震えながら右手をリゼルドの頬に触れさせる。


「私は、あなたを知っている」


「私は、まだ君を知らない」


 リゼルドは、初心な青年のような調子でいる。


「ここから、初めることはできるだろうか」


 八葉は、リゼルドの体を抱きしめた。


「ずっと、こうしたいと思っていた。不思議ね」


 リゼルドは目を潤ませ、八葉の背を撫でた。



第百八十一話 完

次回『意外な編成』

本日の更新はここまでです。

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