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地上が怖い

 帝国の初代皇帝となった勇者と最も激しく争ったのは、不死公リゼルドだろう。

 数百年前のその時代から、リゼルドだけは七公で代替わりしていない。

 割られた側頭部はその時のものだ。


 だから、リゼルドは地上が怖いのだ。

 勇者との戦いは、リゼルドのトラウマになっていた。

 しかし、同時に恋しいものにもなっていた。


 勇者。あの男ほどリゼルドを理解した者はいなかっただろう。

 そのため、策をいくつも見破られ窮地にも陥ったが。


 そのリゼルドが、地上に出ることになる。

 物憂い気持ちが先にたった。


「後は頼んだぞ、グルート」


 側近のグルートが頭を垂れる。


「お任せください、我が主君」


 龍公シアンが音もなく現れる。その手を、骨だけの手で握った。

 次の瞬間、リゼルドは八公会議の会場に移動していた。


 調印をしていない悪魔王と、日光に弱い吸血公はともかく、他の五公は既に集まっているようだ。


「それじゃあ行きますよ。あっちの世界は日差しが眩しいからそのつもりで」


 そう言って、シアンは両隣にいた者の手を掴んだ。他の者も、手や服を掴み合う。


(行きたくない)


 そんな思いが、胸を焼く。

 しかし、そんなことはお構いなしに、シアンは転移魔法を使った。

 帝都に、六公は足を踏み入れていた。


「ぐああああああああああ!」


 叫び声を上げたのはリゼルドだ。

 全身が焼けるように痛い。そして、成仏するかのような心地よさが体を満たす。


「なんだ? 罠か?」


 鬼人公斬歌が戸惑うように言う。


「あー」


 シアンが間の抜けた声を上げる。


「帝都十剣の者が、この前の騒動を沈めるためにターンアンデッドを使ったと言っていたのでした。聖属性の術にとてつもなく長けた者だったので、その影響が残っているのかと」


「なるほど、リゼルド殿は成仏するわけか」


 斬歌は納得したように言う。


(いや、もっと焦れよ!)


 リゼルドは心の中でツッコミを入れる。


「一度リゼルドさんだけを魔界に連れ帰ります。人に姿が近いキシャラさんは王宮の病室に行ってターンアンデットの解除をお願いしてきていただけると……」


 苦しみの雄叫びを上げながら、リゼルドは考える。


(上手いな。亜人公はそういうことで屈辱を感じるようなプライドの高い男ではない)


「かまわんよ」


 そう言って、亜人公は屋根の上を走っていった。

 そして、一旦リゼルドは魔界に戻った。


「どうでした、リゼルドさん。久々の地上は」


「痛かった」


 リゼルドは嫌味を篭めて言う。


「しかし、青い空は悪くはなかったかな」


 そう、短く付け加えた。


「あれが欲しくて、私は戦争を起こしたのだった。懐かしい」


「今ではすっかり丸くなられましたね」


「歳を取ると皆そうなる」


「私はまだまだだ。強い敵と戦いたい」


「お主や鬼人公の若さは時に眩しいよ、龍公」


「今回の事件、不死公殿は誰が犯人だとお考えで?」


 リゼルドは物憂げな視線をシアンに向けた。


「わからぬか?」


「……ご尤も。そろそろ、ターンアンデットの効果も切れた頃でしょう。行きましょう」


 そう言って、シアンはリゼルドの手を取って、地上へと移動した。

 眩い太陽。青い空。リゼルドと今は亡き妻が欲しかった物。


 周囲から人々は逃げていくが、悪い気分ではなかった。

 不死公リゼルドは、再び地上の土を踏んだ。



第百七十七話 完



次回『十剣と六公』


明日の投稿になります。

明日も三話投稿予定です。

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