表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

176/200

犯人は誰だ?

 刹那が死者に襲われたという情報はあっという間に王宮中に伝わった。

 夜警には新十郎と京子が兵を指揮しつつ当たっている。


 異変があった。

 刹那の傷の治りが異様に遅いのだ。内蔵に達する傷は放置しておけないので全力で治癒させた刹那だが、今は病室で寝転がっている。


「あれは、あの剣の特性なのだと思います」


 刹那は、淡々とした口調で言う。


「敵の傷の治癒を遅らせる。そうした呪いを持った剣なのだと」


 見舞いに来ていた一馬は、師の手を握った。

 刀を振り続けて硬くなったその手が、一馬は好きだった。


「どんな剣でしたか」


 一馬は問う。


「漆黒の剣でした。刃の先まで、見事に黒一色。地上の物質で作ったものではないのかもしれませんね」


「……七公の仕業だと?」


「そうとまでは言いません。後は空想にしかならない話です」


 しかし、七公が疑われるのは確実な話だ。特に怪しいのは、不死公リゼルド。


「ちょっと俺の世界で相談してきます」


「密談ですか」


 刹那は苦笑交じりに言う。


「時たまあなたがどちら側についているかわからない時があります」


「俺は公平ですよ。魔物が悪いと思えば魔物と、人が悪いと思えば人と話し合います。もっとも」


 手を握る手に力を込める。


「今回は人間が悪いということはありえない。俺はそう信じています」


「ありがたいことですね」


 刹那はそう言うと、苦笑顔のまま瞳を閉じた。


「しばらく休みます。怪我人が出た時は私のもとへ」


「はい!」


 病室を出ると、人間モードのシアンと鉢合わせした。

 待っていたらしい。


「話が早いな」


「魔界の情報網を舐めたらいけない」


「少し話そう。結城さんも交えて」


「そうだね。十剣の代表者にも聞いてもらわなければならない話だ」


 そして、二人は移動を開始した。

 玉座の間の前で足止めをくらい、結城を呼び出してもらう。

 しばらくして、結城はやって来た。

 シアンを見て、結城は目を丸くする。


「これは龍公殿。ご足労感謝します」


「いえ、こちらこそ面目ない。これは魔の者の仕業でしょう」


「そうと決まったわけではない。人間にもあくどいことを考えるやつはいるものだ」


「いえ。その漆黒の剣というものに、我々は覚えがあるのです」


 護衛兵達が興味深げにこちらを見ている。


「場所を変えよう」


 そう言って、結城は歩き始めた。

 辿り着いたのは、結城の家だった。


「大丈夫ですか? 離れて」


「ここなら俺の察知能力で玉座の間まで把握できる範囲だ」


 飄々ととんでもないことを言う。

 玉座の間は三階で城は丘の上。その縦の位置だけでも相当な距離がある。


 やはり一席はこの人しかいないな、と一馬は再認識する。

 優恵が茶を用意している間に、二人と一体はテーブルについた。


「剣に覚えがあるというのはどういうことかな?」


「盗まれたんですよ。邪法の剣が」


 シアンが目をそらしながら言う。


「神楽と美雪は大丈夫なのか?」


 一馬は思わず腰を浮かす。


「神楽は怪我を負ったけど回復してる。美雪は無事だった」


「そうか……」


 一馬は腰を下ろした。


「邪法の剣は強大な呪いがかかっている代わりに、莫大な力を持つ。敵の回復をある程度無効化したり、人を斬るたびに斬れ味が上がったり」


「つまり、また無差別に人が斬られる可能性があるわけだ」


 結城が物憂げに言う。


「そうなりますね」


 シアンも物憂げに言う。


「邪法の剣の窃盗犯の特徴は?」


 結城は問う。


「人だった、とだけ」


 空気が変わった。

 それでは話が変わってくる。

 亜人でも魔族でもなく人。

 それでは人間族の身内争いになってしまう。


「と言っても、目撃者は魔の気配を読むこともできません。亜人や魔族だった可能性も限りなく多いでしょう」


「となるとなにか」


 結城は物憂げに言う。


「七公全員が容疑者に上がるということか」


「残念ながらそうなりますね」


 シアンはさらりとそう言った。


「死者一人を操るぐらい不死公でなくてもできる芸当です。もっとも、一番怪しいのは悪魔王だと思いますけどね。奴はまだ、魔王の肉片を欲している」


「魔王の肉片?」


「魔王を復活させたところで力不足ではないかな」


 結城と一馬は口々に言う。


「魔王と世界の卵には関連性があると先代魔族公は主張していたようです。静流の証言です」


「ふうむ、なるほど」


 その時、頭を天井に打つ音が大きく響き渡った。


「いったあ!」


 叫んで、天井から美少女が降りてくる。

 天使だ。

 彼女は何事もなかったかのように席についた。


「相変わらずぽんこつだなこの天使は」


 一馬は呆れたように言う。事実、呆れている面が多いと思う。


「世界の卵」


 天使は何事もなかったかのように言う。


「確かに魔王と勇者ならば世界の卵を生み出せるでしょう」


「なんだと?」


 結城が戸惑うように言う。


「このアンバランスな世界。その統合性を取ろうと言う動きの最たるものが魔王と勇者です。一方が征服すればこの台座は普通に世界の卵を置いた世界と変わらなくなりますからね」


「全滅させればいなかったものと同じことと言うことか」


「そうなります。そのシステムはいつしか歪になり、大きな願いを集めれば世界の卵を作れるように変わっていった」


「けど、魔王は世界の卵を作れなかった。作れたなら使っていたはずだ」


「莫大な量の願いと、触媒となる剣が必要なのですよ。それが、邪法の剣と覇者の剣」


 一馬は腰に帯びた剣を見る。使い勝手の良い便利な剣と思っていたそれが、今日はとても不気味に見えた。


「邪法の剣にそこまでの価値があったか……」


 シアンは腕を組み、考え込む。


「ところでこの人は?」


 天使は戸惑うように問う。


「龍公シアン」


「七公?」


 天使は素っ頓狂な声を上げた。


「あわわわわ敵に重要情報を話しちゃった。どうしてくれるんですか! あなた方がしれっと仲良くしてるからですよ」


「心配しなくても言いふらしたりはしないよ。私も一馬達も現状維持を願っている」


「ほ、本当ですか? ポロッと喋ったり」


「くどいな。言わないよ」


 シアンは少し苛立ったように言う。

 割り切るのが上手そうなシアンを苛立たせるとは流石ぽんこつ天使。


「そこで、調印式での契約を果たそうと思う」


 シアンは、淡々とそう言った。


「そうくると思っていた」


 結城は微笑む。


「調印式での契約?」


「一方の領土に侵入した者の形跡がある場合、十剣と七公はすぐにその解決に乗り出す義務がある」


 シアンは淡々とした口調で言う。


「つまりだ。誰が犯人かわからないから七公揃い踏みってわけだな。いや、日光が苦手な吸血公は来れないか」


 結城は楽しげにそう言った。

 一馬は息を呑んだ。地上に六公が揃うというのか。


「背筋が寒くしかならないんですけど……」


「今回は味方だ」


 結城はなだめるように言う。


「……多分な」


 そう、自信なさげに付け加えた。



第百七十六話 完


次回『地上が怖い』


18時頃投稿予定

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ