帝都の異変
「第二席は無理でしょうが、現状でも十剣中堅ぐらいの格はあると思います。後は修練を続ければ第二席の座も夢ではないでしょう」
一馬の正直な感想に、玉座の間の皇帝は苦い顔をした。
「正直者はいつか馬鹿を見るぞ」
「素直なのは長所と言う人もいます」
「そうだなあ……」
皇帝は考え込む。
「第五席ぐらいなら、そう危険な任務にも当たらんかな」
「ケース・バイ・ケースですね。断言はできません」
皇帝の護衛の結城が淡々とした口調で言う。
「我々はそれぐらいの覚悟を持って十剣の名を背負っています」
「そうさな。あれが望むのならば、望む道を進ませてやるのもいいのかもしれん。いくつになっても子供の独り立ちは寂しいものだ」
皇帝はそう言って溜息を吐いて、立ち上がる。
「結城。編成は任せた」
「では?」
「あれは十剣に入れる。現状でも十分通用するようだが、死なないように仕上げに存分に鍛えてやってくれ」
「護衛がいなくなりますが?」
「しばらくは次の第二席に任せよう」
そう言うと、皇帝は席を立って、玉座の間を去った。
一馬も、立ち上がって帰ろうとする。
こちらを覗いている八葉と、目があった。
「良かったですね、要望が通りそうですよ」
「一馬さんのおかげです。私も十剣かぁ……」
「制服の赤、似合うと思いますよ」
「嬉しいです」
八葉は無邪気な笑みをこぼす。
「しかし、あなたは第二皇女だ。無理はなさらぬよう」
「心得ております」
そう言って、八葉はスカートの両端を掴んで少し持ち上げると、礼をしていった。
(あのお転婆には皇帝も敵わないな)
思わず、そんなことを考えた一馬だった。
+++
帝都の平民街は人で溢れている。
競りの賑やかな声に野菜や果物を売る店の売り文句。
ちょっとしたことで起こった喧嘩に観光客。
その時、血の雨が降った。
その時の周囲の人々の考えを表すならば、え?といった感じだろう。
突然の出来事に驚いて、思考が追いついてきていない。
また、血の雨が降る。
殺人鬼が通行人の首を斬ったのだ。
誰かが悲鳴を上げた。
それを皮切りにしたように、大勢の人間がその場から駆け去った。
それでも、殺人鬼は剣を振り続けた。
「久々に帰ってきたらなにやら大惨事になっていますね」
刹那が家の屋根に立ち、淡々とした口調で言う。
「まあ、十剣の目の前で犯行を起こしたのがあなたの運の尽きです」
そう言って、刹那は殺人鬼の傍へと着地する。
刹那は刀を鞘から抜いて居合を放つ。
それを、相手の剣は受けとめた。
その時、刹那にも思いもしないことが起こった。
刀が折れたのだ。
刹那は十剣第七席。席的には下から数えたほうが早いがベテランだ。不条理の力で強化した刀を折られるなんて、想像の範囲外だった。
(素直な太刀筋過ぎたか)
そう思い、後ろに退きつつもう一本の刀を抜く。
殺人鬼が追いかけてくる。
その瞳に、理性がないことが気がついて、刹那は背筋が寒くなった。
第百七十四話 完
次回『刹那の危機』
明日投稿予定




