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不可侵条約

「ほう、ほう。そなたが新生魔族公か」


 八公会議の場で、キスクは愉快げに魔族公となった静流を見つめた。


「優秀な魔術師と先代魔族公の間に生まれたのが私です。静流です」


「莫大な基礎魔力を持っているのがわかる。実力もライバルを蹴落としたことから折り紙つきだ」


「どうも」


「それでは八公会議を始めようではないか」


 キスクは愉快げに微笑む。

 今日の八公会議は、重大発表がキスクからあるということで、欠席者はいなかった。

 騒乱の中にあったはずの吸血公領からも代表が出ている。


「その前に、発表があります」


 キスクの表情が厳しくなる。

 龍公シアンの発言だったからだ。

 シアンはキスクへの反発を隠そうともしない。


「我々七公はこの度、人間界との不可侵条約を締結しました」


 キスクは唖然とした表情になる。


「お前達、人間などとまともに交渉する気か?」


「ええ。知恵がある者同士、上手くやっていけると思います」


 シアンは飄々とした口調で言う。

 そう、このために静流は魔族公となったのだ。

 そして、吸血公の後釜もシアンの動き通りに決まった。

 全てはシアンの掌の上だ。


「貴様……図ったな?」


「さて、なんのことやら」


 シアンはとぼけることに決め込んだようだ。

 キスクが剣を抜き、シアンに飛びかかろうとする。

 鬼人公の刀が、鞘から抜かれてその剣を弾き飛ばした。


「異論があるなら我々七公全員を斬り伏せよ。まあ、無理だろうがな」


 キスクは歯ぎしりをする。


「……覚えていろ」


 そう言って、キスクは席を立つと、部屋を出ていった。

 全員、脱力する。


「しばらくはなんとかなりそうだな」


 狼公マーナガルムが言う。


「血印を押しての契約ですからね。破れば土地の魔力が奪われる。それは彼としても手痛いのでしょう」


 シアンは淡々とした口調で分析する。


「しかし紙一重だ」


 鬼人公斬歌が言う。


「奴が独断で動く可能性も加味しておかねばなるまい。まあもっとも」


 斬歌は天を仰いで言う。


「あっちには十剣がいる」


 静流はその一言に、思わず傷ついた。


(次の二席は誰になってるかな。遥かな。どちらにしろ、もう私はあの中には戻れないんだ……)


 異変に気づいたらしく、シアンが静流の頭を抱き寄せた。


 こっちでやっていかねばならない。

 静流はその覚悟をあらたにした。



第百六十八話 完

次回『魔族公生活』


明日の予定

静流が沈むターンが続きましたが、次の回は一転してほのぼのした話になると思います。

その後、二話投稿して今回の話は一区切りがつくと思います。

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