空白の第二席
時間は少し遡る。
静流が失踪する直前だ。
帝都の夜景を眺めながら、シアンが言う。
「覚悟はいい? ここからは行くも地獄退くも地獄よ」
「あんまりビビらせないでほしいだわさ」
静流は肩をすくめて言う。
「覚悟はできてる。これは私にしかできない任務なようだわさ」
「そういうことになるわね」
シアンは暗鬱な表情になる。
「できるならば、一馬の友達を巻き込みたくはなかった」
「なに。いつでも会えるだわさ。その気になれば」
「そうね。私がいつでも手伝ってあげる」
「ただ……」
静流は、苦笑顔になる。
「彼らが年老いていっても、私だけ若いままだったら、それはきっと、ちょっと、いややっぱり寂しいだわさ」
「ハーフの宿命ね」
「ま、いい男見つけて結婚して子供を沢山作るだわさ。賑やかになるに違いないだわさ」
「前向きね」
「後ろ向きだったらあなたが困るでしょう?」
静流が悪戯っぽく微笑んで言った台詞に、シアンは苦笑してみせた。
「それじゃあ、行きましょう」
そう言って、シアンは手を差し出す。
静流はその手を握った。
次の瞬間、二人は全く違う場所へと移動していた。
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「静流が行方不明とはどういうことだ?」
皇帝直々に呼び出され、一馬は身が縮む思いだった。
「帰ってこないんです。三日経っても」
「なにか変化はなかったか?」
「例の対決を挑んできたぐらいで。後、部屋にはこれがありました」
そう言って、一馬は十剣の制服と、手紙を差し出した。
皇帝はそれを掴み、読む。
「誠に申し訳ありませんが、十剣の任務を果たせそうにないと思い、この度職を辞させていただこうと思います……これだけか?」
皇帝は少し不機嫌になったようだ。
「はい、これだけです」
「けしからん!」
皇帝の声が玉座の間に響き渡った。
「結城に次いで目にかけてやった恩を仇で返すとは。まことけしからん!」
「それでは、第二席は他の者に任せますか?」
結城が冷静な声で問う。
それで、少し皇帝の頭も冷えたようだ。
「いや。彼女以上の第二席など考えられん。しばらく、第二席は空席とする」
(そして階級の低い十剣が苦労する、と。上手くできていないなあ世界って)
心の中でぼやく。
その後、色々と話した気がするが、思い出せない。
ぼんやりとしながら、帰り道を歩いた。
静流は、何故消えた?
一馬達との生活に不満があったのか?
自分達は友人ではなかったのか?
疑問が次から次へと積み重なってくる。
今にも口から飛び出て叫び出してしまいそうだ。
わかることが一つある。
帝国は貴重な戦力を一人失った。
第百六十六話 完
次回『静流の戦い』
本日十二時頃投稿予定




