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祝勝会

 祝勝会は一馬の希望で平民街で行われた。

 テーブルが公園に並び、焼かれた肉が次々に置かれていく。


 一馬は帝都に残った十剣達と食事を取っていた。


「今戦ったら俺でも敵わんかもな」


 結城が腕を組んで、感心したように言う。


「そんなことないですよ。最近結城さんがした滝斬りをクリアしたところです」


「おー、クリアしたか。あれは基礎能力の向上に繋がるからアリなんだよな。多少時代錯誤だが」


「時代錯誤ということはないでしょう」


 滝斬りを勧めた刹那が困ったように言う。


「まあ、そうだな。しかし、不条理の力の開発方法はどんどん進歩していくんじゃないかと俺は思うよ」


「現実と非現実の境界さえ壊せばいいわけですしね」


「そういうこと。一馬は理解が早いな」


「自慢の一番弟子です」


 刹那は胸を張って言う。


「あれ、お前はもう俺の弟子じゃなかったの?」


 結城が戸惑うように言う。

 沈黙の後、険悪な空気がその場に漂い始めた。


「一馬」


「一馬?」


 二人に詰め寄られ、一馬は数歩後退する。

 国一番の実力者に国一番の治癒能力者。組まれたら負けだ。


「俺としては、二人共師匠みたいなものですよ」


「みたいなものって一体?」


「曖昧な態度は両方からの顰蹙を買うぞ、一馬」


「まあ、正式に師弟の誓いをしたのは刹那さんです」


 一馬は、たじたじになりながら言う。

 刹那は満足気に頷く。


「けど、俺をより高いレベルに導いてくれたライバルは結城さんです」


 結城はしみじみとした表情で頷く。


「最初に戦った時、お前は術なしでは俺に対抗できない程度だったからな」


「剣を溶かされた男がよく言う」


 刹那がぼやくように言う。

 結城は苦笑して、刹那の背を叩く。


「まあよしとこうや。二人が師匠でいいだろう」


「あなたはライバル。私は師匠。譲れません」


 そんな賑やかなやり取りの中で、一馬は静流の存在にふと気がついた。

 それぐらい、彼女はこの場で浮いていた。

 誰とも交わらず、木を背に、一人肉を食べている。


 一馬は、彼女に近づいていった。


「どうしたー静流。負けてへこんでんのか」


「デリカシーのない男は嫌われるだわさよ」


 悪戯っぽく微笑んで静流は言う。


「負けは負けだ」


 ぼやくように言って、一馬は静流の隣に立つ。


「ま、そうだわさね。今日は勇者殿に花を譲ってあげるだわさ」


「俺は死ぬかと思ったよ」


「けど、安定感のある戦い方だっただわさよ。十回やれば九回は私が負けるだわさね」


「残り一回は?」


「あんたが死ぬだわさ」


「冗談じゃないぜ。なんの余興か知らないけどこんなのはもうこりごりだ」


「これが最後だわさよ」


「約束するか?」


「いいだわさよ?」


 一馬は小指を差し出す。

 静流は戸惑うように、その動作を真似する。

 小指と小指が絡まった。


「指切りげんまん嘘ついたら針千本飲ーます。指切った」


 小指と小指が離れた。


「なにこれ」


「俺の世界の口約束の方法だよ」


「ふーん。物騒な歌詞だわさね。針千本なんて売ってるだわさ?」


「口約束だからな。実際に飲む奴はいないよ」


「なんだ。びびって損しただわさ」


「びびる要素がどこにあるんだよ。俺達はもう戦わない。そうだろう?」


「まあ、そうだといいだわさねって程度だわさ」


「お前はよーわからん」


 静流は悪戯っぽく微笑む。


「静かに流れる水の如く。変幻自在。それが私だわさ」


 一馬は苦笑する。


「そうだな。それがお前なんだろうな」


 一馬はそれから静流と二、三言交わして、十剣達の元に戻っていった。

 静流は気がつくとその場からいなくなっていた。

 そして、ついぞ帰らなかった。



第百六十五話 完



次回『空白の第二席』

明日投稿となります。

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