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天使と悪魔

 セレンをお姫様抱っこしている最中だったキシャラは、一馬の突然の来訪に驚いたようだった。

 慌ててセレンを下ろし、顔を真っ赤にして対応する。


「なんだ、一馬か。なんの用だ?」


「俺達も邪魔するぜ」


 鬼人公斬歌と、龍公シアンが背後から現れる。


「これは千客万来だな」


 亜人公の瞳に、冷たい光が宿る。

 仕事の話だ、と察したのだろう。

 セレンは茶を用意すると言って引っ込んでいってしまった。


「これはポンコツ自称天使の話だからありのまま受け取って良いかはわかりませんが……」


 そう前置きして、一馬は今回の件を語り始めた。


「世界の卵、か……」


「聞き覚えはありますか?」


「魔族公が欲していたという話は聞いた覚えがある」


「俺は気に食わんのだ」


 斬歌はそう言って、腕を組む。


「これでは俺達は神と悪魔のチェスの駒ではないか。悪魔王の奴の首を捻り殺してやりたいくらいだ」


 一馬は、その一言で硬直する。


「待て、悪魔王がこの地にいるのか?」


 その言葉の意味を理解したらしく、全員震えるような思いになった。


「もしかして、その悪魔王ってのは……」


 斬歌は、恐る恐る言う。


「悪魔の元締めか……?」


 亜人公も、やや懐疑的に言う。


「先走らぬことです」


 シアンは淡々とした口調で言う。


「奴は多くの部下と洗脳の術を持っている。迂闊に攻撃して手痛いしっぺ返しを食らうのは避けたい」


「機を待つか……」


 亜人公の言葉に、一同頷いた。

 心音が早鐘のように鳴っていた。

 黒幕は、この世界にいる。



+++



 その夜、一馬は領地で黄昏ていた。

 幸いなことに、今回の襲撃でも被害はなかったようだ。

 襲われたのは帝都のみらしい。


 そこに、龍が舞い降りた。

 静流と遥が降りてくる。


「なんの用だわさ?」


「いやな。まじないを聞いてな。我々三人の地であるここで実践しようと思ったんだ」


「まじない?」


 遥が興味深げに目を輝かせる。

 一馬はナイフを取り出すと、自分の中指の表面に一筋の傷をつけた。

 そして、ナイフを遥に渡す。


「お前達も切ってくれ」


「マゾの趣味はないだわさよ……」


「まじないだって言ったろ」


 遥と、静流も、中指に傷をつけていく。


「後は傷口をくっつけて誓うんだ。我ら生まれた時は違えど死ぬ時は一緒だ、と」


「嫌だわさよ!」


 静流が予想外の反発を見せたので、一馬は面食らった。

 そういうのも面白いだわさね、なんて一言で済ませるのが静流だと思っていたからだ。


「だって……私のは、魔族の血だし」


「なにか問題あるか?」


「問題ある?」


 遥も乗っかる。

 静流はしばらく俯いていたが、苦笑顔で顔を上げた。


「あんたらみたいなお人よし今後現れないだわさ」


 三人は人差し指を差し出す。そして、傷口を触れ合わせた。


「我ら生まれた時は違えど、死ぬ時は一緒だ」


「そうだわさね。せいぜい支えあいましょう」


「寿命で死ぬまで腐れ縁だね、きっと」


 微笑む三人を、月だけが見ていた。

 この三人で、随分色々と冒険してきた。

 きっと、これからも一緒だ。


 それが願望なのか予測なのかわからぬままに、その日の幕は閉じた。



第百六十二話 完

今回の更新はここまでです。

また週末に数日かけて数話ずつ更新できたらな、と思います。

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