創世記
「昔、神様と悪魔が台座を二人でわけました」
天使はとつとつと語り始める。
「台座の上に、二人は世界の卵を置いていきました。卵は孵化し、二人の思うような世界ができあがりました。ところが……台座は、一つ余ってしまいました」
嫌な予感がしたのは全員だったらしい。
物憂げな表情をしている。
「最後の一つに、神様と悪魔は卵を起きました。卵は混ざりあい、その後二分し、この世界ができあがりました」
「なるほど。だから不条理の力とか魔力とかが跋扈する世界になったわけか」
一馬はげんなりしながら言う。
「有り体に言えばそうですね」
天使は淡々とした口調で言う。
「神様は最後の一つをありのままにしておこうとお思いですが、悪魔は我が物にしようと虎視眈々と狙っているのです」
「悪魔の侵入を防ぐすべはないのか?」
一馬は問う。
「神様とて万能ではありません。常時一つの世界に入っているわけにはいかないのです」
「無責任じゃないか?」
「……そう言われても仕方がないかもしれませんね。しかし、神様は今、この世界のある台座を監視している最中です。悪魔の量によっては、天使も送り込むでしょう」
「ほどほどまでは静観しているってことか」
「そうなりますね」
「神様は間違っている」
一馬のその一言で、場が緊迫した。
天使は不思議そうに首をひねる。
「何故ですか?」
「命は失われたらそれきりだ。神様にとって魂はただの一つでも、人間にとってはとても大事な一なんだ。全力を尽くさない神様は間違っている」
天使はしばし黙り込んだ。
「そうですね、それが人間の考え方ですよね」
天使は、苦笑する。
「けど、その神様がいなかったらあなた方の存在もなかったわけですよ」
一馬が黙り込む番だった。
「悪魔が現れたら私が教えます。それで犠牲は減らせるんじゃないでしょうか」
そう、天使は胸を張って言った。
「まずは今回の壊れた結界の修復からだな。泥で埋めて岩で防いで結界を張らねばならん」
結城が夢でも見ているような表情で言う。
一馬も同じだった。映画にのめり込んだ後のように現実味がない。
「ああ、ご案内しますよ」
そう言って、天使は歩いていって、こけた。
(このポンコツの言うことを鵜呑みにしてて大丈夫なのかなあ……)
一抹の不安を感じた一馬だった。
第六十一話 完
次回『天使と悪魔』
十八時頃投稿予定




