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語りべ

 刹那は城中を駆け回っていた。

 傷ついた十剣見習いを治癒しているのだ。

 中には致命傷を負った者もいる。


 時間との戦いだった。


 何度も、炎のエレメンタルマスターとすれ違った。


(あっちはあっちで忙しいんだろうなあ)


 悪魔は真っ二つになっても生きている。息の根を止めるには完全に炭化させる必要がある。

 炎のエレメンタルマスターはそれが適任ということだろう。


 刹那は、一馬の背中を見つけて、話しかけたいという思いをぐっとこらえた。

 ただ、自分の弟子は強くなったと、その実感を覚えた。


 刹那は駆ける。城の中を。



+++




 玉座の間に結城、一馬、遥、静流が集められていた。


「悪魔、という存在がいたことは歴史に残っておる」


 皇帝は、苦い顔でそう言った。


「昔から悪魔の脅威に晒されていたのですか?」


 結城が問う。


「その時々の勇者に滅ぼされたと書いてある。それでも彼奴らは何度でも蘇ってくる」


 皇帝は深々と溜息を吐いた。


「まさか、ワシの代でこようとはな」


「逆に考えればこれは幸いです。今の十剣のメンツは、歴代最強でしょう。勇者も現れた。これは奴らを滅ぼす最適な機会なのでは?」


 結城が励ますように言う。

 それに乗せられたのか、皇帝は少し微笑んだ。


「そうじゃのう。数えさせたところ、遺体は三十あった。それだけを退けたのだ」


「いえ、奴らを滅ぼすことなどできません」


 その声は、刺すように部屋に響いた。

 部屋の扉が、いつしか開いている。


 そこには、羽の生えた銀髪の美少女が立っていた。

 少女は、一歩ずつ前に歩いてくる。

 そして、なにもない場所で転んだ。


 一馬も、遥も、静流も反応した。


「お前……」


「あなた……」


「私に城が危ないって教えてくれた人!」


「人じゃないです、天使です」


 そう言って、天使は体を起こす。


「悪魔を滅ぼすことなどできません。奴らはこの世界の外から来ているのですから」


「それは、異世界ということか?」


 一馬が問う。


「違います」


 天使は即答する。


「全ての世界の外。そう、話は創世記まで遡ります」



第百六十話 完

次回『創世記』


本日十二時頃投稿予定

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