語りべ
刹那は城中を駆け回っていた。
傷ついた十剣見習いを治癒しているのだ。
中には致命傷を負った者もいる。
時間との戦いだった。
何度も、炎のエレメンタルマスターとすれ違った。
(あっちはあっちで忙しいんだろうなあ)
悪魔は真っ二つになっても生きている。息の根を止めるには完全に炭化させる必要がある。
炎のエレメンタルマスターはそれが適任ということだろう。
刹那は、一馬の背中を見つけて、話しかけたいという思いをぐっとこらえた。
ただ、自分の弟子は強くなったと、その実感を覚えた。
刹那は駆ける。城の中を。
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玉座の間に結城、一馬、遥、静流が集められていた。
「悪魔、という存在がいたことは歴史に残っておる」
皇帝は、苦い顔でそう言った。
「昔から悪魔の脅威に晒されていたのですか?」
結城が問う。
「その時々の勇者に滅ぼされたと書いてある。それでも彼奴らは何度でも蘇ってくる」
皇帝は深々と溜息を吐いた。
「まさか、ワシの代でこようとはな」
「逆に考えればこれは幸いです。今の十剣のメンツは、歴代最強でしょう。勇者も現れた。これは奴らを滅ぼす最適な機会なのでは?」
結城が励ますように言う。
それに乗せられたのか、皇帝は少し微笑んだ。
「そうじゃのう。数えさせたところ、遺体は三十あった。それだけを退けたのだ」
「いえ、奴らを滅ぼすことなどできません」
その声は、刺すように部屋に響いた。
部屋の扉が、いつしか開いている。
そこには、羽の生えた銀髪の美少女が立っていた。
少女は、一歩ずつ前に歩いてくる。
そして、なにもない場所で転んだ。
一馬も、遥も、静流も反応した。
「お前……」
「あなた……」
「私に城が危ないって教えてくれた人!」
「人じゃないです、天使です」
そう言って、天使は体を起こす。
「悪魔を滅ぼすことなどできません。奴らはこの世界の外から来ているのですから」
「それは、異世界ということか?」
一馬が問う。
「違います」
天使は即答する。
「全ての世界の外。そう、話は創世記まで遡ります」
第百六十話 完
次回『創世記』
本日十二時頃投稿予定




