衝突
一馬が城に戻ると、結城があちこちに指示を出している最中だった。
現在十剣見習いは数十人いる。
一馬や遥のように密度の濃い修行は受けてはいないが、アドバイスを受ける程度のことはされている。
それで閃きに至り、それを積み重ねた者が、十剣になれるという寸法だ。
「一馬。良いところに来てくれた」
そう言って、結城は一馬の手を握る。
「北の結界に穴が開いた。尋常な速度ではなかった。丁度いい、お前も防衛戦に付き合ってくれ」
「ああ、本当だったんですね」
「本当、とは?」
「いや、天使を名乗る不可思議な存在が城が危ないと忠告してくれたので」
「天使……?」
結城は目を見開く。
「いや、結構胡散臭い奴でしたから鵜呑みにはできませんが。着地できずにコケてましたからね。ポンコツです、ポンコツ」
「それ以上は言うな」
戒めるように結城は言う。
「多分、その方は、本物の……」
結城がそう言い終える直前に、城に衝撃が走った。
炎系の魔術が爆発したのだと臭いでわかった。
「俺は玉座の間と皇帝陛下を守る! お前は臨機応変に動いてくれ!」
「わかりました!」
なんだろう。調子がいい。
丁度天使がキスした箇所から力が溢れてくるような感じだ。
今なら、なんでもできるような気がした。
その時、悪魔が空中を飛んで室内へ向かって飛び込もうとした。
一馬は覇者の剣を抜いてその存在に相対する。
悪魔はほくそ笑んでそのまま一馬の横を通り抜けようとした。
一馬は剣を振るう。
それは、強大な魔力に防がれた。
高濃度の魔力。それがこの生物の特徴だ。
しかし、覇者の剣は徐々に前へと進んでいる。
(強大な魔力。そのはずだ……けど、なんだろう。勝てる気がする)
魔力の壁が凶器へと変わった瞬間、一馬の剣は悪魔の首をはねていた。
「誰か、こいつを燃やして完全消滅させてくれ! 俺は別の場所を確認しにいく!」
「はい!」
十剣見習いが返事をして、悪魔の遺体を燃やし始めた。
(あの滝斬りで随分不条理の力が強くなった……その影響か)
基礎練習とは大事だな、とあらためて感じた一馬だった。
第百五十八話 完
次回『破裂』
十八時頃投稿予定




