それぞれの修行
一馬は居合斬りで滝に斬りかかった。
しかし、とめどなく流れる滝を真っ二つになどできようがない。
そもそも、長さが足りない。
多分、これは、師からのメッセージだ。
通常状態でも光刃を使えるようになれば、覇者の剣を使った時の光刃は今までよりも威力が増すはずだ。
それに、覇者の剣も所詮は剣。いつ折れるかわかったものではない。
一馬は集中し、滝に無心に斬りかかる。
ふとあることに気づき、一馬は結界を張った。
そして、滝の中に入っていく。
壁に、切り傷の後があった。
(結城さんのものだ)
一馬は、直感的にそう感じた。
その傷の中には、滝の端から端まで続いているものもある。
滝を真っ二つにした人間が以前にも存在した。
その事実は、一馬の励みとなった。
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「飛燕は分散する技です。それを無理やり集中させたのが飛燕・改」
スピカは淡々と語る。
遥とスピカ、二人は山にこもって修行をしていた。
「なら、もっと集中させれば……?」
「破片がはじけ飛ぶでしょうね」
スピカは淡々とした口調で言う。
ぼんやりとした表情だが、真剣にシミュレートしているらしい。
「あ……」
遥は呟く。
「新しい技の基礎みたいなものを思いついた気がします」
「いいでしょう。試してみなさい」
遥は鞘に刀を収め、居合の構えを取る。
そして、刀身を鞘から解き放った。
出てきたのは、一本の飛燕。
見る者が見れば、それが力を凝縮した一本だとわかるだろう。
その次の瞬間、一本が爆発し、周囲に破片を弾き飛ばした。
同時に、スピカが遥を地面に押し倒す。
「無事ですか?」
「おかげさまで」
「まったく、無茶をする弟子です」
スピカは溜息混じりに言う。
「けど、見えた気がしませんか。飛燕三式の完成形」
「……現状はその手しかないでしょうね」
スピカは、物憂げにそう言った。
遥が片手を上げる。
スピカはその手に、自らの手を当て、握りしめた。
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足に魔力と不条理の力をミックスして送り込む。
魔力の扱いはこの一ヶ月で随分慣れた。
二つの力は相反しながら爆発的な力を作り出した。
「刹那の太刀!」
静流は目にも留まらぬ速度で移動し、剣を振るう。
案山子が真っ二つに斬れた。
「もう大体の修行は終了して良さそうね」
シアンが手を叩きながら言う。
「なんという威力だ……」
ここに来た時に静流を案内してくれた竜が、愕然としたように言う。
「けど、実力が向上したって実感はないだわさ。魔力の抑え方は習えて良かったけれど」
「以前の刹那の太刀より随分と速度が向上しているわ。凡百の戦士なら目で追えないぐらい。強い魔力により腕力も向上して威力も格段に上がっている」
「シアンのおかげだわさ」
「そうよ。いつか貸しを返してね」
「八公会議はいつやるだわさ?」
「明日よ。間に合ってよかった。今回はちょっと荒れそうだからね」
「人間族に味方した件?」
「もあるし、キスクを吊るし上げなきゃならないし。紙一重なのよね。今の八公には穏健派が多いから大丈夫だとは思うんだけど」
「私達のために骨を折らせて悪いと思っているだわさ」
シアンは苦笑した。
「自分で選んだ道よ。悔いはないわ。もう少し修行していくといいわ。覚えた技術を体に馴染ませる時間は必要よ」
「ありがとう」
シアンは静流に背を向けて、去っていった。
静流は自分の手を見つめる。
一つ前のステップに進めたという実感があった。
第百五十五話 完
次回『八公会議』
十五時頃投稿予定




