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それぞれの修行

 一馬は居合斬りで滝に斬りかかった。

 しかし、とめどなく流れる滝を真っ二つになどできようがない。

 そもそも、長さが足りない。


 多分、これは、師からのメッセージだ。

 通常状態でも光刃を使えるようになれば、覇者の剣を使った時の光刃は今までよりも威力が増すはずだ。

 それに、覇者の剣も所詮は剣。いつ折れるかわかったものではない。


 一馬は集中し、滝に無心に斬りかかる。

 ふとあることに気づき、一馬は結界を張った。

 そして、滝の中に入っていく。

 壁に、切り傷の後があった。


(結城さんのものだ)


 一馬は、直感的にそう感じた。

 その傷の中には、滝の端から端まで続いているものもある。

 滝を真っ二つにした人間が以前にも存在した。

 その事実は、一馬の励みとなった。



+++



「飛燕は分散する技です。それを無理やり集中させたのが飛燕・改」


 スピカは淡々と語る。

 遥とスピカ、二人は山にこもって修行をしていた。


「なら、もっと集中させれば……?」


「破片がはじけ飛ぶでしょうね」


 スピカは淡々とした口調で言う。

 ぼんやりとした表情だが、真剣にシミュレートしているらしい。


「あ……」


 遥は呟く。


「新しい技の基礎みたいなものを思いついた気がします」


「いいでしょう。試してみなさい」


 遥は鞘に刀を収め、居合の構えを取る。

 そして、刀身を鞘から解き放った。


 出てきたのは、一本の飛燕。

 見る者が見れば、それが力を凝縮した一本だとわかるだろう。


 その次の瞬間、一本が爆発し、周囲に破片を弾き飛ばした。

 同時に、スピカが遥を地面に押し倒す。


「無事ですか?」


「おかげさまで」


「まったく、無茶をする弟子です」


 スピカは溜息混じりに言う。


「けど、見えた気がしませんか。飛燕三式の完成形」


「……現状はその手しかないでしょうね」


 スピカは、物憂げにそう言った。

 遥が片手を上げる。

 スピカはその手に、自らの手を当て、握りしめた。



+++



 足に魔力と不条理の力をミックスして送り込む。

 魔力の扱いはこの一ヶ月で随分慣れた。

 二つの力は相反しながら爆発的な力を作り出した。


「刹那の太刀!」


 静流は目にも留まらぬ速度で移動し、剣を振るう。

 案山子が真っ二つに斬れた。


「もう大体の修行は終了して良さそうね」


 シアンが手を叩きながら言う。


「なんという威力だ……」


 ここに来た時に静流を案内してくれた竜が、愕然としたように言う。


「けど、実力が向上したって実感はないだわさ。魔力の抑え方は習えて良かったけれど」


「以前の刹那の太刀より随分と速度が向上しているわ。凡百の戦士なら目で追えないぐらい。強い魔力により腕力も向上して威力も格段に上がっている」


「シアンのおかげだわさ」


「そうよ。いつか貸しを返してね」


「八公会議はいつやるだわさ?」


「明日よ。間に合ってよかった。今回はちょっと荒れそうだからね」


「人間族に味方した件?」


「もあるし、キスクを吊るし上げなきゃならないし。紙一重なのよね。今の八公には穏健派が多いから大丈夫だとは思うんだけど」


「私達のために骨を折らせて悪いと思っているだわさ」


 シアンは苦笑した。


「自分で選んだ道よ。悔いはないわ。もう少し修行していくといいわ。覚えた技術を体に馴染ませる時間は必要よ」


「ありがとう」


 シアンは静流に背を向けて、去っていった。

 静流は自分の手を見つめる。

 一つ前のステップに進めたという実感があった。



第百五十五話 完


次回『八公会議』

十五時頃投稿予定

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