駄目だ
一馬は皇帝に謁見していた。
皇帝の傍らには結城がいる。
「修行に出たいと思うのです」
一馬は、恐る恐る来訪の理由を述べた。
「駄目だ」
結城の即答だった。
「刹那にも付き合って欲しいと言うつもりだろう」
結城は不満げに一馬を見る。
考えていたことをよまれて、一馬は思わず口ごもる。
「今、十剣のうち三人が同じ理由で休職している。これ以上の戦力の低下は避けねばならん。ただでさえ未知の敵がうろついているからな」
「三人というと?」
「遥、静流、スピカだ。よりによって第二席と第三席が欠けている」
「先を越されたか……」
一馬は心の中で溜息を吐く。
「一馬。できるだけお前には帝都にいてほしい。修行するのはかまわんが、すぐに駆けつけられる場所でやってくれ」
「わかりました」
「ということでよろしいでしょうか? 皇帝陛下」
「うむ。一馬の力はこの状況において不可欠なものだ」
「わかりました」
一馬は肩を落として、玉座の間を後にした。
城の外では、刹那が待っていた。
「修行の許可は出ましたか?」
「却下されました……」
「だと思いました」
刹那は苦笑交じりに言う。
「第二席と第三席が修行に出たのは私も知っていることですからね。次善の策といきましょう」
「次善の策?」
「一馬、ついてきなさい」
そう言うと、刹那は空中に見えないブロックを作り、空を駆けた。
一馬も、慌てて後を追う。
刹那が向かったのは、山だった。
植物や木々の匂いが鼻をくすぐる。
そして、轟くような水音が聞こえ始めた。
刹那は、滝の近くで立っていた。
「この滝を斬りなさい」
「滝を?」
一馬は、覇者の剣を鞘から抜こうとする。
そこに、刹那の刀が放り投げられた。
慌てて、それを掴む。
「覇者の剣ではいけません。普通の武器でです」
「……それは無茶では?」
覇者の剣で光刃を放てば滝を真っ二つにすることも可能だろう。
しかし、身長より短いこの刀で滝を真っ二つにするなんて想像も及ばない。
「一日でやれ、とは言っていません。そうですね、半年以内に終われば良しとしましょう」
一馬は、渡された刀をじっと見る。
それは名工の作ったものなのだろうが、覇者の剣の存在感、威圧感に比べれば見劣りした。
「たまに様子を見に来ますよ。私にも仕事があるので毎日とは言えませんが」
そう言って、刹那は空中に作ったブロックの上に立った。
「では、また」
そう言って、刹那は空中を駆けていった。
「……マジで?」
滝と刀を見比べて、一人呟く一馬だった。
第百五十四話 完
次回『それぞれの修行』
十二時頃投稿
次々回『八公会議』
十五時頃投稿




