飛燕を磨く
「ということなのですよ師匠」
スピカの家で、遥はことのあらましを告げていた。
飛燕・改ではとてもこれからの戦いには不安だと。
「元々飛燕は繊細な技です」
スピカはぼんやりとした表情でスープを作り、遥に差し出す。
「飛燕・改も所詮は分散していたものを一点集中して威力を高めただけのもの。根本的な強化はなされていないのです」
「飛燕・改をさらに改良することは?」
「やる前からできないとは言えませんが、この辺りが飛燕の限界なのかもしれませんね」
師から告げられた一言に、遥は重しを乗せられたような気分になった。
「強化の方法はあるにはあるでしょう。実際、あなたは周りの人の力を借りて飛燕・改を強化した」
確かに、そうだ。仲間の力を借りて、竜神をも削る飛燕・改を放った。
「しかし、基礎能力の向上など一朝一夕でできるものではありません」
遥は俯く。そしてあることに気がついて顔を上げた。
「静流は魔族公の心臓を喰らって魔力を高めました。あれはどうでしょう」
「あれはね、因縁が強い相手じゃないと意味が無いんですよ。魔族の親の血を引いていたとか、魔族同士で特別な契約をしていたとか、そういうバックホーンがあった時の裏技みたいなものです」
「八方塞がりかあ」
遥はスープを一口飲む。
温かい甘みが口の中に広がった。
「斬岩一光を覚えてみればどうでしょう?」
スピカの言葉に、遥は意表を突かれた。
「刹那さんの技でしたっけ」
「あれならば硬い敵にも効きます」
「それもそうなんですけど、私の師匠はスピカさんですし、飛燕をもっともっと良くしたいと思いますし……それに、接近して放つ技なら次元突で事足ります」
スピカは鍋をテーブルの上に置くと、遥の向かいに座った。
「律儀な人ですね」
苦笑顔だった。
「飛燕をもう一度改良しませんか? 師匠」
「そうですね。私は現状に甘んじていたかもしれません。それに、あなたは第三席。意外な閃きがあるかもしれません」
「それでこそですよ」
遥が手を差し出す。
それを、スピカは強く握りしめた。
「ところで話は変わりますが」
「はい?」
「以前、結城くんは女性の十剣と一馬を対決させることにより心の未練を断ち切らせました」
そういうこともあったな、と遥は思う。
「けど、あなたはその時十剣ではなかった」
スピカが、遥の手を離す。
その瞳は、真っ直ぐに遥を見ていた。
「あなたは、まだ一馬が好きなのですか?」
遥は黙り込む。
沈黙が場を包んだ。
「ま、良いでしょう。一馬は領地も持つ貴族です。重婚も問題ないでしょう」
「……シャロには勝てませんよ」
そう言って、遥はそっぽを向いた。
第五十三話 完
次回『駄目だ』
今日の更新はここまでです。明日も三話更新予定。




