第二席、龍公領に踏み入る
道はわからなかったが、王都で借りたドラゴンに乗って静流は龍公領に来ていた。
どうやら前回の戦いで捕縛したドラゴンらしく、真っ直ぐに家へと戻っていく。
薄暗い世界で小さな太陽が輝いている。
流石魔界と言った感じで、周囲のあちこちにドラゴンが所狭しと飛んでいる。
地上ではけして拝めぬ景色だ。
そして静流は、城らしきものが見えてくると、ドラゴンから飛び降りた。
正門の前に立つ。
「私は帝都十剣第二席、静流。教えを乞いにまいった」
正門が開き、竜人が歩いてきた。
シアンによると、先程まで静流が乗っていたオーソドックスなドラゴンが龍。人の体に近い外見をしているのが竜らしい。
「主人は今不在だ。だが、十剣の方の来訪とあっては無下にはできぬ。入られよ」
そう言うと、彼は城の奥へと入っていった。
やけに門や通路が大きい。
先代龍公ゼラードの巨大さを思い知らされる気持ちの静流だった。
「すいませんね、通してもらって」
「人間が門の前に立っていたら目立ってかなわん。誤解を生む前に対処しただけのこと」
そこまで言って、竜は振り返る。
「と言っても、お前は魔族の臭いが強い。杞憂だったかもしれんな」
あらためて言われると、胸にぐさりとくる。
静流は、苦笑して言葉を返した。
「私は人間ですよ。ただ力を持っただけの」
竜は再び歩き始める。
「力を持つ者を人は阻害する。勇者も、お前も、いずれはそうなる運命だ」
「そうでしょうか」
静流は、建前を口にする。
「私はそう思うほど人間を嫌っていない」
嘘だった。心の何処かで怯えていることだ。
「君は面白い人間のようだ。龍公もお喜びになるだろう……帰られたようだ」
竜は行き先を変える。
そして、玉座の間へと静流を案内した。
巨大な椅子に座って、大股を開いて足の間に手を置いてバランスを取っている威厳の欠片もない竜。シアンだ。
「龍公。願いがあってまいりました」
「大体の話は聞いてるよ。魔力のコントロールだね」
「はい。不条理の力も使えなくなり、常時怪力状態になり、戸惑う一方です」
「それはね、今まで不条理の力と魔力を同時にミックスで使ってたあなたがレアなのよ。数百年に一人の天才と言ってもいい」
今までの戦法は使えないということか。
静流は落胆する。
「けど、修行を積めば以前よりも強くなれると思うわ。なにせあなたは、魔族公ギルドラと優秀な魔術師の娘なのだから」
希望の光は、見えた。
ならば、それに向かって前進するだけ。
「シアンさん、私に修行をつけてくれませんか」
「いいよ。一緒に遊ぼうじゃないか」
シアンはそう言って、口角を上げて微笑んだ。
第百五十二話 完
次回『飛燕を磨く』
21時頃投稿予定




