月明かりの下で
「料理たっぷり作っといたわよー」
優恵がそう言って夫である結城と仲間達を出迎える。
一馬もその中の一人だった。
空には、月が輝いている。
「私も手伝った」
そう言って、シャロは胸を張る。
「そうか。よくやった」
一馬は微笑んで、シャロの頭を撫でた。
「はわわわわわわわ」
シャロは顔を真っ赤にする。猫の時は気にしない癖に、人間モードでの大勢の前でのスキンシップが恥ずかしいのだろう。
そして、唇を尖らせて言う。
「なに? なんか変じゃない?」
「そうか? ちょっと疲れてるけど……」
その時、一馬は誰かに押されて体勢を崩した。その先には、シャロの体があった。
「予想以上に疲れてるみたいだわさね。奥さんと休んでたほうがいいんじゃないかしら」
シャロに抱きかかえられ、その温もりで、緊張感が抜けた。
一馬は、この数日の疲れが一気に噴出してくるのを感じた。
「お言葉に甘えてそうするよ。いいか? シャロ」
「あらあら。子供が一人増えたみたい」
その一言で、仲間達は笑い合う。
そして、一馬は冷やかされながら自分の家に帰っていった。
ベッドの上で、シャロの腰に抱きつく。
「なあ、シャロ」
「なに?」
「魔界も人間界も、全てがわかりあえる日はこないのかなあ」
「それはこないだわさ」
「なんでそう思う?」
「個人同士でも争いは起こる。集団となれば尚更。神様は生き物に競争する力をくれた。けど、完全にわかりあう方法はくれなかった」
「そういうもんか……けれども、俺はそれを覆したい」
「一馬がそう言うとできそうな気がするから不思議だね」
シャロはそう言って、一馬の頭を撫でる。
一馬は窓から差し込む月明かりを感じながら、意識が朦朧としてくるのがわかった。
そして、シャロの膝で、いつしか眠りについた。
一馬の長い一日は終わった。
第百五十話 完
今回の更新はここまでです。
次回も週末から数日かけて更新できたらなと思います。




