戦いの終わり
「ふははは、面白いぞギルドラ! 実に面白い! これが七公武闘派同士の戦いか!」
斬歌とギルドラは互角に戦っている。
いや、斬歌は無傷だが、ギルドラは体のあちこちに傷を負っていた。
ギルドラが剣を振り上げ溜めの体勢に入る。
斬歌は警戒して、動きを止めた。
ギルドラの体の背後から、心の臓を掴んで腕が生えた。
それが引っ込むと、ギルドラは胸から大量の血液を吹き出した。
それでも、ギルドラは生きている。
何故だ? 斬歌の頭に疑問符が浮かぶ。
シアンが飛んでいって、ギルドラの後頭部から何かを抜いた。
その瞬間、ギルドラは地面に倒れ伏した。
「これは……?」
「死体を無理やり操ってたみたいね」
斬歌は舌打ちする。
「遊具公か」
ギルドラの後ろでは、心臓を掴んで思い悩む静流がいた。
静流は暫し考え込んでいたが、心の臓をまるごと飲み込んだ。
静流の潜在魔力量が爆発的に増えたことがわかる。
「そうか。魔族公に気配が似ていると思ったら、娘か」
斬歌が納得したように言う。
「不本意ながら」
そう言って、静流は口についた血を服で拭う。
「そろそろ鬼子玉の期限切れだ。俺は魔界に帰るぜ」
「次の会議では遊具公を吊し上げてやりましょう」
「そうだな」
そして、鬼人公は、現れた時と同じように、唐突に消えた。
「今回の戦争で、誰か、なにを得たのかな」
静流は、呟くように言う。
「まあ好戦派のガス抜きにはなったかもね」
シアンはそう言って、静流の肩を叩く。
「あなたはもう自分の力であなたの世界を守れる。誇りなさい。父から受け継いだ力を」
「その受け継いだってのが微妙だけど、自信は持つことにするだわさ」
そう言うと、静流は指を振る。
それだけの動作で、地面に穴が開いた。
その中に、静流は黙って、ギルドラを埋めていった。
誰も声をかけることをできずに、その光景を見守っていた。
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「敵が退いていくぞ!」
喝采が起こった。
操られていた亜人公は、撤退を部下達に指示したのだった。
「美雪の件、今回の件、貸しだな」
そう、亜人公は優しい表情で言う。
本来は穏やかな人なのだな、と一馬は思う。
「亜人公。あなたも帝国と不可侵条約を結びませんか?」
「考えておこう。私は、集まってくれた部下達に謝らねばならぬ」
そう言うと、亜人公は力なく飛んでいった。
一馬も、その場に座り込む。
「キュアー」
呪文の詠唱が聞こえた。
刹那だ。
「勇者は苦労が続きますね」
からかい混じりの口調に聞こえた。
「十剣もでしょう」
「はは、まったくもって」
「師匠」
「なんです?」
「俺達は魔界の住人達とわかりあえるのではないでしょうか」
龍公シアンとは友達になれた。鬼人公斬歌とは共闘ができた。亜人公キシャラには貸しがある。
それは、人間同士の関係と限りなく近いものに思える。
刹那は、しばし考え込んだ。
「可能性は胸にしまいこんでおくことです。それがきっかけで、阻害されたり、手が緩んで殺されたりしたら、あなたの奥さんも、子供も、不幸でしょう?」
「そうですね」
一馬は口元に手をやる。
「迂闊なことは言わないようにします」
「見なさい。綺麗な夕焼けですよ」
刹那の視線の先には、確かに色鮮やかな赤がある。
「戦いの昼間が終われば、休息の夜がやってきます。自然に従い、ゆっくり休みましょう」
「師匠のそういうとこ、好きですよ。なんつーか自然大好きなとこ」
「ばっ」
刹那は顔を赤くすると、一馬の頭をはたいた。
「そういう台詞は奥さんにだけ言いなさい」
「ご尤も」
戦いは終わった。
戦士達に、休息の夜がやってくる。
第百四十九話 完
次回『月明かりの下で』
21時頃投稿予定




