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鬼子玉

 龍が空を飛び始めた。

 空中からの炎が人間軍を襲う。

 しかし、人間軍も後方部隊の結界でなんとか凌ぎつつあった。


 一般兵の戦いは完全な混戦状態になっていた。

 強力な鬼人族に帝国軍は隊列を崩され次々に蹂躙されていく。


 範囲攻撃を放とうにも味方も巻き込んでしまう可能性があるのが現状だ。

 結界の外に残った二人の十剣は魔族公ギルドラの相手でそれどころではなく、結界の中に入ったメンバーはオークの大軍の槍攻撃に手を焼いていた。


「結界の外に、出るか」


 結城が、呟くように言う。


「そしたら相手が隊列を整えるだけですよ」


 刹那が淡々とした口調で言う。


「正味、ここまで善戦できているのは相手の戦列が整うのを妨害しているからです。不意打ちとも言いますね」


「しかし……それでも犠牲が多すぎる。鬼人族があこまでいるとは予想外だった」


 結城の剣から光が迸る。

 それは前方のオークを十数体巻き込んで消滅させていた。


「鬼人族……鬼人……斬歌……」


 一馬の脳裏に閃くものがあった。


「あ!」


 一馬は思わず声を上げていた。


「どうした?」


 結城が焦ったように言う。


「昔、鬼人公から貰ったアイテムがあるんです。試したことなかったなって」


「……一か八か、だなあ」


 結城が憂鬱げに言う。


「しかし、なにもないよりはいいでしょう」


 刹那が、目の前のオーク五体を同時に突きながら言う。

 一馬はポケットから、鬼子玉を取り出した。

 どう使えばよいかわからず、迷った挙句、地面に叩きつけた。


 強大な魔力が、突如現れた。

 それは、一人の男から発せられているものだ。


 刹那も結城も、咄嗟にその場から移動している。

 しかし、一馬だけは動かなかった。

 それが、懐かしい気配だったから。


 鬼人公斬歌が、その場に現れていた。


「なんの用だ勇者殿。俺は今へこんでいる」


 斬歌は溜息混じりに言う。


「鬼人族が何百と戦場に混じっている。なんとかできないだろうか」


 斬歌は物憂げに結界の外を見て、一つ溜息を吐いた。


「俺は参加するなと言ったのだ。なのに参加している者が百を超えるという。なんだこれは。鬼人公失格のお知らせか」


「へこんでないでなんとかしてくれ!」


「……まずはこの邪魔っけな結界を突破しよう」


「できるのか?」


「俺を誰だと思っている?」


 そう言って、斬歌は襲い掛かってきたオークの頭部を握りつぶした。


「鬼人公、斬歌」


 斬歌は唇の片端を持ち上げて笑った。


「そういうことよ」


 その時、一馬は察知した。

 強大な魔力が近づいてくる。

 それも、一馬のよく知る気配だ。


 龍公、シアンが空中で静止した。

 龍に乗ったドラゴンライダーが矢を放つ。

 しかしそれは魔力の壁に防がれシアンに届くことはない。


「龍族は帝国軍との不可侵条約を締結しています。それを破る龍は排除せねばなりません」


 シアンはよく通る声で言う。


「よって、今回の戦い。龍公シアンは帝国軍の味方につきます」


 人間軍から喝采があがる。


「先越されたか」


 斬歌が拗ねたように言う。


「おいィ鬼人族!」


 斬歌のがなり声が周囲に響き渡る。


「近しいとはいえ他の種族の長にホイホイついてって最前線に放り出されて情けないとは思わないのか!」


 鬼人族の動きが止まる。人間族も、その声の大きさに動きを止めた。


「今俺の味方に戻るなら許してやる! 今回の件を企んだ奴を駆逐しろ!」


 雄叫びが上がった。

 そして、鬼人族はさっきまでと逆の方向へと駆けて行く。


 シアンの鱗が体から剥がれて結界に襲い掛かりヒビを入れた。

 そこに斬歌が一撃を入れ、結界はバラバラに崩れ去った。


「皆、鬼は味方だ! 攻撃はするな!」


 結城の声が響く。

 皆、わかっているようで、一目散に結城達を囲む敵を倒しにきた。



+++



「こいつはレベルが違う! 私達に任せて皆は他の場所へ!」


 遥の声で、ギルドラを囲んだ人間軍は先へと進んでいった。

 魔族公ギルドラ。死んだと思われていた男。

 しかしその腕力に衰えはなく、遥は剣を受けるだけでも精一杯だ。


「やってみたかったんだよ」


 そう言って、二人の前に立ったのは、斬歌だった。


「七公同士のガチバトルって奴をよ……!」


「鬼人公斬歌……」


 遥は、少し躊躇うようにその名を呼ぶ。


「帝都十剣。お前らは先へ進め。ここは俺が引き受けた」


「けど!」


「邪魔すんなつってるんだよ」


「なるほど。バトルマニアだわさ」


 そう呆れたように言うと、静流は先へと進んだ。

 遥も、躊躇いながらその先に進んだ。


「私も加勢しましょうか?」


 宙を浮いてしゃがんでいるシアンが問う。


「こんな面白いこと誰にも分けてやれるかよ」


 そう言うなり、斬歌の体が変化を始めた。

 背丈は伸び、腕や足は筋肉で膨れ上がり、頭部の角は三本になった。

 その手が、刀の柄に触れる。


「鬼人公斬歌、まいる!」


「頑張れー」


 シアンの呆れたような応援の声を皮切りに、二体の七公の決戦が始まった。



第百四十六話 完

次回『焦燥』


本日18時頃投稿予定。

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