決戦の準備
「ギルドラが生きていた……?」
それは、静流が戸惑うように発した一言だった。
「ありえないだわさ。奴の魂は魔王に吸収されたはずだわさ」
「それが生きてたっていうんだから仕方ない」
一馬の家で食事の最中だった。
「実際、奴の遺体はあの場から消え去っていた」
静流は黙り込む。
「三万の兵ってのの方が私は衝撃だけど」
遥は憂鬱な表情で言う。
「フィジカルがそもそも違いすぎるのよ。ちょっとやそっとの兵数じゃ覆すのは無理よ」
「ギガス部隊が前列に並ぶんだろうなあ……その後ろに鬼人やオークや死霊兵、エルフ」
「こっちの前列がぶっとんでくのがありありと想像できるだわさ」
「暗雲ここに極めりか……」
「皆マイナスに考えすぎだよ」
そう言ったのはシャロだ。
「大軍との戦いはこれが初めてじゃないでしょう?」
「それもそうだけどね。不安なものは不安だわさ。魔族公を私達は何人がかりで倒したかって話だわさ」
「うーん、それを言われると弱いけど」
「シャロ。俺の世界へ移動する方法は美雪から学んだな?」
「うん」
「緊急時はそれを使え。今回ばっかりはどうなるかわからない」
シャロは、一馬を後ろから抱きしめた。
「嫌だよ。生きて帰る気がないなら無理やり連れてく」
「……そうだな」
一馬は苦笑するしかなかった。
+++
「問題は、何処に穴が開くかだ」
結城は、顎に手を置いて帝国の地図を広げる。
帝国の領地は広い。今まで魔物が結界を破ってきた場所はまちまちだ。
しかし、三万の兵だ。
どうにか察知しなければならない。
そこで結城は、土属性の魔法を学んだ者の中でも優秀な人間を各地に放った。
数日はかかるだろうが、そろそろ結果が出てもいいはずだ。
「失礼します!」
兵士がかしこまって作戦会議室に入ってくる。
「笹木愛さんが地下に振動を感じるとのことです。石動不動様も確認しました。多分、穴を掘っているのではないかと」
「でかした! で、どこだ、その場所は?」
「ここです」
そう言って、兵士は手に持った紙を結城に手渡した。
結城は表情を緩める。
村や町から遠い平原だ。軍は広く展開できるだろうが、民間人の犠牲は減らせる。
「愛と不動をねぎらってやってくれ。あと、平原の近くに砦を建てる。国中の大工を集めてくれ」
「資金は?」
「いくらかかってもかまわん!」
「了解いたしました!」
持っていた紙をテーブル上に置いて、結城は微笑む。
(これで多少はマシな対処ができそうだ)
犠牲は、多く出るだろう。しかし、それは相手側も同じ。
結城は、一歩前に進めた気がした。
第四十二話 完
次回『臨界点』
本日12時頃投稿予定。




