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白と黒の同盟

 表面上は平和に、日々は過ぎていく。

 神楽は美雪の護衛を務め、シアンは時たまやってきてはパチンコに一馬を連れ出す。

 思わぬことがあった。


 美雪の護衛に関する質問の応酬をしている中で、神楽と再び仲良くなったのだ。

 仲良くなって良いものだろうか、と思う。

 彼女とは、また剣を交える機会があるかもしれない。


 詩乃から連絡が来たのは、うだるような暑さの夏だった。


「美雪ちゃんの襲撃犯のアジトを見つけたかもしれない」


 詩乃は淡々とした口調でそう言う。


「何処で?」


「残念ながら突入して逃げられた。けど、遠くに行く金はないと思う」


「あー……捜索を手伝えと」


「有りていに言えばそうね。い・せ・か・い、に関してはあなたの方が詳しいわけだし」


 まだ異世界に関して懐疑的なのだろう。詩乃がアクセントを効かせて言う。


「出ますよ。場所は?」


「花丸の二丁目」


「了解」


「なんの電話だったの?」


 横で寝そべっていたシャロが問う。


「美雪さんの暗殺者の寝床を見つけたけど逃げられたって話」


「重要事項じゃん」


「だから行ってくるよ。なに、怪我は負わないと思う」


「そうだね。一馬だから大丈夫だよ」


 そう言って、シャロは一馬の頭部を撫でた。



++++



「早かったわね」


 コンビニの前で詩乃が驚いたように言う。


「ここらはガキの時の遊び場だったんで」


「なるほどねえ。私にとっては異郷だわ」


「何処の出身で?」


「東京」


「……なんでこんな僻地に来たんですか?」


「結婚の予定があった」


「詩乃さん指輪してましたっけ」


「おじゃんになった」


 暫しの沈黙が流れた。


「んじゃ、怪しいところ探してきます」


「うん、任せた。ネットカフェとか警察じゃないと確認できない場所は任せて。あとこれ、コンビニの監視カメラが撮った犯人の写真」


 三十代ぐらいの小太りの男性だ。竹刀袋を背負っている。しかし、そこに入っているのは竹刀ではないのだろう。


「うい。多分写真がなくても魔力でわかりますけどね」


「異世界語はさっぱりだ」


 そう言って、詩乃は肩を竦めた。

 一馬は歩き出す。懐かしい土地を。

 そして、予想外の人間が一馬の前で片手を上げた。

 神楽だ。


「なにやってんだ、神楽。護衛は?」


「あんたの奥さんが差し入れしに来てくれたから変わってる」


「んじゃ俺の息子の護衛がいないじゃねえか」


「そっちは龍公が来てるって聞いてる」


 胸を撫で下ろす。


「それなら安全だな」


「この場所は私にとっては幼い頃の遊び場でね。大体の地理は把握してるんだ」


「どっかで聞いた台詞だな」


 他でもない自分の台詞だ。


「怪しいところを探っていこう」


「わかった。見つけたら連絡する」


「一人で探す?」


「その方が無駄がないだろう」


「それもそうね。白の勇者のあなた、黒の勇者の私、共同作戦といきましょう」


 そう言うと、神楽は飄々と自転車に乗って走っていった。


「久々に護衛から解放されて楽しいとか思ってそうだなあ」


 一馬は、ぼやくように言う。


「けど実際、同じ相手と二十四時間とか息が詰まるだろうな」


 一馬はそう呟くと、歩き始めた。

 自信はあった。



第百三十五話 完




次回『白と黒の乱舞』

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