因縁
美雪と一通り話した後、シアンを護衛に置いて、一馬は一条神楽に会いに行った。
彼女は既に、警察から解放されているらしかった。
彼女の家の前で、帰ってくるのを待つ。
「亜人公だとか龍公だとか、正気で言ってるのかい、君達は。家出少年」
詩乃は煙草を吸いながら興味深げに訊く。
「事実は小説より奇なりとも言いますので……」
一馬は曖昧に答える。
そのうち、鞄を背負った神楽が帰って来た。
彼女は一馬を見ると、表情を強張らせる。
そして、手を右へと差し出した。
空間に捻れが生じ、次の瞬間、彼女の手には黒い剣が握られていた。
「覇者の剣、来い!」
一馬も手を前に差し出して念じる。
白銀の剣が、鞘ごと移動してきた。
白と黒。
二つの剣が、ぶつかりあった。
「ここで会ったが百年目……!」
「俺、そんな恨まれるようなことしてないと思うけど」
「あんたのせいで私は全てを失った!」
「悪の側につかなければよかった」
徐々に、剣は神楽の方に傾いていく。
神楽は後方へと飛んだ。
そして、剣を振りかざし、下ろす。
漆黒の刃が生まれ、宙を飛んだ。
一馬は覇者の剣で光刃を生み相殺する。
「元々それなりに強かったけど、腕を上げたな」
「いや、私は強くなんてなかった。覇者の剣のナビゲート能力を使ってある程度実力がある風に見せていた。けど」
神楽の瞳に殺意が宿る。
「今は違う」
「あー、少年少年」
唖然としていた詩乃がぼやくように言う。
「銃刀法違反に殺人未遂。役満です」
一馬が唖然とした瞬間、神楽が飛びかかってきた。
一馬は剣を納屋に戻すと、神楽の剣をかいくぐり、地面へと投げ落とした。
神楽は意識を失う。
黒い剣は最初からなかったように消えてしまった。
「これでどうでしょう?」
一馬は、恐る恐る詩乃に問う。
「あんたらのファンタジー設定にも多少興味が湧いてきたわ」
「とりあえず犯人は捕まえたわけですが」
「いや、それはないわ」
詩乃は吸い殻をしまい、断言する。
「あの実力があれば、今頃美雪ちゃんは真っ二つだった。彼女は、犯人じゃない」
神楽が犯人ではない?
なら、犯人は何処へ?
一馬は、戸惑うような思いで失神した神楽を見ていた。
第百三十二話 完
次回『一人の部屋』




