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凍りつくような目で

 幼馴染の泰子と妹の双葉が一馬とシャロの赤子を抱いている。

 随分と大きくなったな、と目を細める。


「そろそろ抱っこしていいか? 俺」


「いいんじゃないかな」


 シャロは微笑んで言う。


「お義母様はどうおっしゃるかわからないけど」


「母さんのいないとこなら大丈夫だろ」


 その時、部屋の襖が勢い良く開いた。


「一馬ー、車出すけどくるかい?」


 シアンだった。パチンコの誘いだ。


「一馬」


 泰子が呟くように言う。


「この西洋美人は誰?」


 凍てつくような目で泰子は一馬を見ている。


「いや、彼女はシアンと言ってな。あっちの世界で親しくなった。俺の親友だ」


「あっちの世界とやらから来る人は二人見てるけどどっちも女ってどういうわけ? どういう生活してたの?」


「一馬はモテたからなあ」


 シャロがしみじみとした口調で言う。


「そんな中でよく私を選んでくれたよね。一時的かもしれないけど」


「なんだよシャロ、疑ってるのか?」


 一馬は、シャロの前で膝を折る。


「俺にはシャロしかいないよ」


「パチンコ行ってきやがれ」


 照れ隠しもあってか、シャロは思い切り一馬の腹を蹴った。

 壁に叩きつけられ、痛みに震えながら立ち上がる。


「シャロさんやり過ぎ」


 双葉が困ったような表情で言う。


「キザな男には丁度いいわ」


 泰子は平然としたものだ。


「んじゃ、ちょっとシアンと遊んでくる。皆、後は頼んだぞ」


 そうして、一馬はシアンとパチンコ屋に向かった。

 車のテレビの音声が流れ、シアンは鼻歌まじりにハンドルを切る。


「……ん?」


 聴き逃してはいけない単語を聞いたような気がした。


「シアン、ストップ」


 車が止まる。


「いや、鼻歌ストップ」


 シアンは鼻歌を止めた。そして、テレビの画面に見入る。

 ニュース番組だった。


「鋭利な切り傷なんですよ。刀ででも斬ったかのような。幸い、周囲に人がいたので手早く処置され命はとりとめましたが」


「彼女は一ヶ月ほど行方不明になっていたというのは本当でしょうか?」


「事実です」


 そう言って、ボードに貼られたシールが剥がされる。


「彼女は今年の二月から三月にかけて行方不明になっていました。何故行方不明になっていたかというのも、記憶がないと」


「関連性があるか調べて欲しいところですね」


「辻斬り……?」


 シアンが、戸惑うように言う。


「シアン。考えてみてくれ。この世界で刀を帯びた人間を見たことはあるか?」


「ないね」


「それが刀で斬られた。これはとんでもない異常事態なんだ」


「言われてみたらそうなるか」


 シアンは納得したような表情になる。

 銃刀法がない世界で育ったシアンにはこちらの世界の常識に疎い面がある。


「シアン。行き先を変えるぞ」


「何処へ?」


「一条神楽に会いに行く」


「……まあきな臭いのはそのセンだわね。けど、アテはあるの?」


「まずは警察署に移動してくれ」


「りょ」


 そう言うと、シアンはハンドルを切って、進路を変えた。



第百三十話 完

次回『北瀬詩乃』

明日投稿予定です。

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